館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
バックナンバー
子どもは鋭い
2015年4月15日
お父さん、お母さんと子どもたちが一緒になって話を聞きたいと言われ、絵本「いのちのひろがり」を読みながら話をすることを試みました。あなたの始まりのところでは、子宮の中でお母さんから栄養分を受けとるのに必要な胎盤をつくる時にはお父さんの遺伝子がはたらくということなど、さまざまな自然の妙をつけ加えながら読んでいきました。小さな子どもたちも熱心に聞いてくれて、楽しい時間でした。
話し終わるとすぐ、一番前にいた今年一年生になるという男の子が立ち上って質問です。「最初にできた眼はぼくと同じように見えたの?」。カンブリア紀になると眼ができてきて、離れたところにある餌も見えるようになったから積極的に生きられるようになったと話し、そのページには、アノマロカリスのちょっととび出した眼が描いてあります。
さてこの眼はどんな風に見えていたのかしら。真剣な男の子と向き合ってアノマロカリスになったつもりになってみました。現存の生きものですと、レンズの構造や視細胞のはたらきを調べて、トンボの見ている世界、トリの見ている世界を疑似体験できます。でも、いかんせん相手は化石です。最初は、レンズも光を感じる細胞も、今私たちが持っている眼ほど洗練されたものではなかったでしょう。色もあまりなくボンヤリ見えていたのだと思います。度の強い近眼だった子どもの頃を思い出しながら考えました。
科学を伝えると言うと、必ず、誰を対象にするのですかと聞かれます。大人ですか、子どもですか、それとも大学生というように・・・その時お答えするのが「関心を持って下さる方」です。何の関心もない人を無理矢理巻きこむことに力を注ぐのでなく、ちょっとのぞいてみようという気持の人が、面白いじゃないのと思って下さる場をつくりたいと思っています。今回の体験でもわかるように、子どもとか大人とかいう区別はあまり意味がありません。