館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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思いが現実になった20年
2014年3月17日
3月1日に生命誌研究館20周年の催しをしました。その場で、ああ私がやりたかったことはこれだったんだと強く感じました。大勢の方がいらして下さったので、どなたとも数分足らずしかお話できなかったのですが、皆さんが生命誌を体で受け止めて下さっていることがよくわかりました。研究者、芸術家、企業の方、ジャーナリスト、主婦などなど、背景が異なり日常の関心も違うであろう方々の誰もが心から楽しんで下さっていたのです。単なる私の思い込みでなく、そのような空間ができていたと思います。
生命誌とはと聞かれれば、細胞やゲノムについて語らなければなりません。研究館とはと言われれば表現がどうのこうのと説明することになります。それはその通りなのですが、要は、「生きている」ということを巡ってあらゆる人とつながり、語り合える「知」を創り出し、それを現実にする場を持ちたかったのです。学際だとか融合だとか言わずに自ずと皆がつながる「知」。3月1日にはそれを実感し、20年でやってきたことはこれだと思いました。
20年前、自分でも明確な形は見えないまま何か今の学問とは違うものを求めて始めたことです。周囲の方にも何だかよくわからないと見えていたでしょう。そんな時、思いを込めたパンフレットを御覧下さった皇后様の「すてきなことね」というお言葉が大きな支えになりました。以来、そのお気持ちに応えようと思い続けてきましたので、20年の場にいらしていただきたいと願ったのです。でも超多忙の御公務の中、御無理と思っていました。思いがけずお出ましいただくことができ、私にとっての「生命誌」の場は理想の形になりました。賢治のいう「ほんとうのしあわせ」を感じました。これからどう展開していくか。それが課題です。