館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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先送りにしてきたことをやっと
2013年9月2日
以前から取り上げたいと思いながら先送りになってきた話題です。朝日新聞の医療サイトに載っているとのことですので御存知の方も多いかもしれませんが、私は村上龍さんからの通信で見ています。
東大医科学研究所の坪倉正治さんの活動です。東日本大震災とそれによる原発事故が地元の方の健康に与える影響を調べ、対策をとることが大事と考えた坪倉さんは、相馬市を中心にホール・ボディ・カウンターを用いた住民の内部被曝調査を進めています。そして、南相馬市立総合病院非常勤内科医として地元の方と接しながら「内部被曝通信 — 福島・浜通りから」を発信しています。先日、まとまった報告がありました。相馬市で、2012年6月から2013年3月の間に検査をした11,898人の結果です。公立相馬総合病院・相馬中央病院で行なわれたものであり、市民の40%が検査を受けているとのことです。成人(高校生以上)9,352人のうち8,958人(約95%)、小児2,546人のうち2,543人(99.9%)が検出限界以下であり、ほとんどの人がセシウムの内部被曝はこの状態を維持しているとのことです。お米や野菜は地元産のもの(検査済のものがほとんどですが)を食べていても問題はないということがわかったのです。成人で高レベルの方の多くは高齢者であり、排泄速度の影響もあるようです。とくに高い人は、自分で山からキノコを採ってきたり、時にはイノシシを獲って食べたりしている方ということもわかりました。坪倉さんの重要な指摘は、キノコやベリー類などはセシウム汚染しやすいというように、産地よりは食べものの種類に気をつけることが大事ということです。福島産というだけで、検査済のものであっても敬遠してしまうのは現実とずれたレッテル貼りですという言葉は、データに基づいた重みがあります。放射能汚染への対処は、後手にまわっていることが多く、これからの課題ですけれど、食べものについては福島県で内部被曝が検出限界以下という結果が出ていることにホッとします。このやり方を維持していって下さることが大事ですし、私たちも応援していくことです。
坪倉さんは、外の人達が福島県を住めないところとか女性は結婚できないとか、科学的根拠なしに言われるのが辛いので、実際のデータに目を向けて欲しいと言っています。一方で汚染水は、日本に止まらず地球のこととして考えなければならない課題として存在しています。ここから社会のありようを考えると、たとえば東京オリンピックで騒ぐのはずれている気がします。お祭で元気になり、景気を刺激するのだとおっしゃるのでしょうが、まず生き方を考え、その中での経済活動や活力を探るのが順序でしょう。
付:先回CMをしました「科学者が人間であること」(岩波新書)、21日付で無事発行されました。でき上がってみるとあれこれ思うことがありますが、気持を汲みとっていただければと思います。