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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【十五夜には穂がないと・・・】

2010.10.1 

中村桂子館長
 あまり物事にこだわる方ではありませんが、季節を感じる行事はできる範囲で楽しむようにしています。できる範囲でというところがミソで、5月5日(端午の節句)には菖蒲湯に入り、冬至には柚湯を楽しんでカボチャをいただくなど・・・その一つにお月見があります。仲秋の名月。お団子はお菓子屋さんで(手抜き)、ススキは庭から。毎年のことなのですが、今年は困ったことになりました。ススキの穂が出ていないのです。葉っぱがやけに立派にのびて、さまになりません。この季節になればススキには穂があると思い込んでいたので気にせずにいましたが、びっくりです。そこで改めて近所を見たら、どこのススキも同じ。9月も下旬だというのに真夏日なのですからススキも困っているのでしょう。これを書いているのは、十五夜の次の日、秋分です。今日は肌寒いと思っていましたら天気予報で十一月並みの気温と言っています。なんだか季節が大雑把になったような気がします。実はススキの隣にある萩も、葉っぱばかりいつになくのびて花が咲きません。この急な寒さでどうなるでしょう。
 十五夜と萩・ススキと言えば、「源氏物語」を思い出します。2008年、京都が源氏千年を祝った時に勧められて初めて通して読んだ「源氏物語」ですが、その中で印象に残った場面の一つです。薫を出産後出家した女三の宮の住居の庭は、秋になると萩やススキが主役の野原になります。源氏は庭に鈴虫を送って放ち、十五夜の日に訪れます。そこで琴を弾く。なんとも美しい光景ですが、この場面の主役は源氏でも女三の宮でもありません。月と草と虫ですよね。
 源氏物語ほど優雅にはいきませんが、月と草と虫を楽しむ気持は千年たっても変らないのが日本人でしょう。ですから、仲秋には穂を出し、花を咲かせてもらいたい・・・大きな自然の流れなのかもしれませんが、どこかこの変化には人間の活動が関わっているのではないかと思えるので気になります。

 【中村桂子】


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