館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【仕事始め】
2009.1.15
今年の仕事始めは、アメリカのインディアナ、ブルーミントンでした。まず、シカゴへ入ってそこから国内線でインディアナポリス、またそこから車で1時間。初めて訪れましたが、ここにあるインディアナ大学は、二重らせん構造の発見者J.D.ワトソンが大学院生として分子生物学を勉強したところです。当時、シカゴ大学では飛び級を認め、15歳で入学したワトソンは20歳の時すでに大学院生。インディアナ大学でルリアという素敵な先生に出会い、バードウォッチングをしていた青年がDNA研究に進み、25歳でらせん構造発見というわけです。 今回はブルーミントンに住む、Jill Taylorさんを訪ねました。Taylorさんは、インディアナ大学を卒業後、ハーバード大学で脳の研究をしていらしたのですが、1996年36歳の時、左脳に出血し言葉を失います。それから8年かけて言葉を取り戻したのですが、言葉のない時は、自分が何十兆もの細胞でできていることを実感すると同時に、宇宙とのつながりも感じてとても幸せだったとおっしゃっています。脳研究者としてそれらを考察した経緯を書いた "My Stroke of Insight" を教えて下さる方があって読み、著者の体験した幸せ感をもとに脳、言葉、人間・・・と考えていくと、人間について、また今の社会のもつ問題点についていろいろ見えてきました。21世紀を考えるヒントがたくさんあるとも思いました。 NHKが対談番組を企画、今回の訪問になったのです。人間にとって言葉とそれを用いた論理的思考はとても大切だけれど、それによって失われるものもあるというのは悩ましいことであり、興味深いことです。放映は2月頃とのことなので決まったらお知らせします。ゆっくり生きるを考えさせてくれるとても楽しいお話でしたから。気温はマイナス、みぞれが降って寒かったですけれど。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |