館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【新年おめでとうございます。今年こそ・・・】
2007.1.5
今、面白いと思っていること、大事と思っていることは、「自然の見方が変わりつつあり、したがって科学も変わりつつある」ということです。なんだか難しいように聞こえるかもしれませんし、事実難しいことではあるのですが、日常ともつながるに違いないと思っていることです。ここ数年間、それを感じ続けてきましたが、今年はきちんと取り組みたいと思っています。 お正月休みに宇宙について書かれた本(「宇宙のランドスケープ」レオナルド・サスキンド著)を読んでいます。実は、宇宙研究ではこの数年の間に、驚くべき「暗黒」の発見が二つあったとされています。それは新聞で次のように紹介されていると著者は書いています。新聞で紹介されるくらい大きな発見であり、しかも日常にもつながることだということです。 「一つ目の発見は、宇宙の物質の90%が暗黒物質と呼ばれる影のような謎めいたものからなるということである。もう一つの発見は、宇宙のエネルギーの70%はよりいっそう深い謎につつまれた幽霊のような暗黒エネルギーと呼ばれるもので占められているということである。」そして新聞で、この後に神秘という言葉が続くのですが、著者はもちろんこれを「神秘」とは受けとめていません。そして「ふしぎなのは、暗黒エネルギーがなぜこれほどわずかしか存在しないかということだ。しかし、はっきりしているのは暗黒エネルギーが今よりほんの少しでも大きければ、私たち人間の存在にとって致命的だったろうということだ」と言うのです。生命体は誕生しなかっただろうということなのでしょう。暗黒物質90%、暗黒エネルギー70%。表に出ているものの方が少ないということです。しかも暗黒に大きな意味があり、生命とも関係するというのですから、ちょっと考えこみます。暗黒とは何かの説明を理解するのはそれほど簡単ではありませんが、サスキンド先生がていねいに説明して下さるので、今のところ挫折せずに来ています。次々と新しい素粒子が登場し・・・全体の1/3くらいまで来ました。感じがつかめるだけだと思いますが、諦めずにもう少し読んでみようと思います。 すぐに自分のところに引きつけて考えるのが悪い癖なのですが、ゲノムの中でタンパク質の情報を持っている部分は全体の1.5%であるということを思いながら読んでいるのです。DNAはタンパク質をつくるものだというセントラル・ドグマから出発した頭にとってはびっくりする事実でしたが、今では残りの98.5%についても少しずつ解明され、その部分の重要性もわかりつつあります。 自然が「見せているところは意外に少ない」というのがいろいろな分野で見えてきているのかもしれません。 自然はひっそりとたくさんのことを抱え込んでいる。これまで考えてきたよりはるかに奥の深いものとして宇宙、地球、生きもの、人間を見て行くこと。科学はそのような変換を求められていると思います。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |