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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【担保は人間への信頼】

2006.11.1 

中村桂子館長
 すばらしい!!!今年のノーベル平和賞をグラミン銀行(グラミンは村の意味とのこと)とその設立者ムハマド・ユヌス総裁が受賞。ニュースでその内容は充分報道されているので、御承知の方が多いと思いますが、竹細工の製作と販売で生計を立てている女性が1日2セントしか利益がない理由は材料費を高利で借りているからだと知ったところから始まるこの事業には「物語り」があります。必要なお金は6ドルと聞いて、それを貸したところ利益は1日1ドル25セントとなり、貸したお金はきちんと返却されたというのです。通常の銀行からはお金を借りるだけの担保がないために高利に苦しみ、貧困から抜けられないだけで、意欲も能力もある人が大勢いることを知って創設したグラミン銀行。借り手の90%は女性であり、98%の返却率とのこと。お金、お金とおっしゃるけれど、お金ってこういう風に使われるものですよねと思います。
 女性は家に縛られていて動けないから、女性に貸せば取りはぐれがないのだという意見も眼にしました。いろいろ批評はできるでしょう。でも、この活動の底には、人間への信頼があります。昨日も文科省から研究費の使用に関して、性悪説で対応しましょうと読みとれる書類がまわってきました。不正使用が目立つので仕方がありませんが、こういうことって悪い方へまわり始めるとどんどんそちらへ進み、それを防ぐために、またお金と時間を使うことになるのです。研究も「物語り」が必要だというのが生命誌を始めた一つの理由なのですが、物語りには、全体を見る眼と人間を見つめる眼が必要です。もちろん人間よいところばかりではありませんが、ダメも含めて信頼しないとと思っています。


 【中村桂子】


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