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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【ものをつくらせないプロジェクトX】

2003.12.1 

中村桂子館長
 NHKのプロジェクトX、中島みゆきのテーマソングと共に人気番組ですから、ご覧になっている方も多いでしょう。午後八時というのは、あまり見やすい時間ではありませんが。先日、『湯布院』がとりあげられていました。これは、私にはとても興味深かった。プロジェクトXといえば、逆境にもめげず、志をもって何かをつくるというのがテーマで、そこに汗と涙があるわけです。今回は、湯布院という町づくりではありますが、具体的には“ものをつくらせない”というのがテーマです。ドイツの温泉町バーデン。バーデンの人の「緑と静けさこそが財産であり、町は100年というものさしで考える」という言葉を基本に、バブル時代にリゾートマンションづくりに入ってきた人たちを拒否します。田んぼが10億円と言われても。そのための建物の高さ規制、住民の同意に関する条例を作ると、中央から法律違反と指摘されます。ここからがすばらしい。町の様子を写した写真を持って国土交通省を訪れ、なんとかこれを生かしたいと訴えると、それまで法律一点張りだった官庁の若手が、一緒になって方策を考えはじめるのです。『東京の真ん中にいて実情を知らずに法律をふりまわす』 のが中央官庁で、これの弊害が多いのですが、実情を知り、共感すれば知恵をフル回転させてくれる。地方の時代と言いますが、本当に地方が良くなるには、中央の動き方も大事です。今、湯布院は人気がありすぎて困るほどの人気スポットで、100年と言わず10数年で、リゾートマンションなど建てない選択が正解ということははっきりしたわけです。“ものをつくらない”ことがプロジェクトXになったということに時代を感じ、ちょっと嬉しくなっています。


【中村桂子】


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