館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【競争とお金の遺伝子?】
2001.4.1
公的グループは着実な方法をとりました。たとえば日本は21番目の染色体の解析に大きな貢献をしたのですが、まずこの染色体の物理的マップを作りました。染色体の上に遺伝子その他の目印をつけておくわけです。それから染色体DNAを切断し、それぞれの断片の配列を決め、目印のある場所を頼りにもう一度並べなおします。 正確に並べるには、Aの断片の右端とBの断片の左端がまったく同じ配列になっていることを確かめてそこが重なり合うからAとBは並んでいるというようにしていかなければなりませんので33,546,361塩基ある21番染色体の配列をきめるには、この5倍の数の塩基を解析したと言われます。 一方ベンターは、目印などつけません(目印をつける作業はとても大変で時間がかかります)。ショット・ガン(メチャクチャ打ち)法と呼ばれるのですが、とにかくDNAを500塩基くらいの断片に切断し、それを解析したあと、コンピュータプログラム(このプログラムの開発が大事だったわけですが)を用いてもとの形に並べてしまうのです。この方法はまず全部で数百万塩基くらいのバクテリアで成功しました。でも30億塩基もあるヒトゲノムにこんな方法を用いてもメチャクチャになってしまって並べられるはずがない。皆がそう思いましたが、ベンターはショウジョウバエで実験したあとヒトにも挑戦しあっという間(9ヶ月)に一人分のヒトのゲノムを解析したと報告しました。 この方法の結果は荒い。こんな批判がありますが、確かに最初は荒くても、ここからだんだん正確にしていくことはできますし、とにかく今では、5人分(その一つは本人のものらしいとも言われています)のゲノムのデータを持っているというのですから強味です。 この方法を使えば他の生物のゲノム解析も、数週間とか数ヶ月という信じられないような速さでできるはずです。たいへんな時代になったものです。もっともベンターは次なる挑戦、ゲノムがどんなタンパク質を作るかという解析に、また正攻法派をアッと言わせる方法を考え出そうとしており、興味はそちらに移っているようですが。 とんでもない暴れ者で、あれこれ悪い評判も立っていますが、私はこういう人好きです。 ところで、ベンターがチンパンジーのゲノムを解析したところ、ほとんどヒトと違っていなかったという結果が出たとのことです。ヒトには自分さえ良ければよいという遺伝子と相手を徹底的にやっつけると満足する競争心の遺伝子となんでもお金で解決しようとする遺伝子と目の前のことにふりまわされて長期的ビジョンが持てない遺伝子があり、これはチンパンジーにはなかった。それ以外はほとんど同じだったそうです。 |