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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【サマーセミナー楽しみました】

2000.9.6 

 8月24日、25日の2日間、恒例のサマー・セミナーをやりました。恒例と言っても、昨年までは実験を主としたプログラムだったのですが、今年は生命誌研究館の特徴を生かし、SICP(Science Communication and Production)グループがこれまでの活動を紹介し、" 社会の中での文化としての科学のあり方を考える会"にしました。
 最近の若い人たちは(この書き方はよくないと思いながら他によい言葉もなく)、競争型社会での勝者になることに忙しく、科学ってなんだろう、研究を通して自分は何を考え、何をやりたいんだろうというような、のんびりとした話に乗ってくる人はいないのではないか。研究がうまくいかないので思弁に走っているような人の集まりになるのではないか。正直に言って当初はそんな心配もしていました。ところが、当日集まってくれた26人は、いずれも頼もしい若者で、ワイワイ、ガヤガヤ、楽しい議論ができました。とても素晴らしい若い方達と接することができて、ちょっと元気がでました。もっとも24日の午後と25日の午前中、正味1日ですから、コミュニケーションが充分でないところもあり、あれこれ問題点は残しましたが。
 実は生命誌研究館はいつも開いていて、CommunicationだけでなくProductionまで多くの方と一緒にできる場にしたいと思っています。ReserchHallという名前を生かすよう、今回参加して下さった方はもちろん、さまざまな方の積極的な参加を期待しています。



<ちょっと一言番外編>
 池上さん(大学4年生)から科学を文化の一つとして考えるとは具体的にどのようなことかという質問がありました。具体的にと言うなら、私自身と仲間たちの仕事を見ていただいて判断していただくのが一番よいと思いますので是非いらして下さい。ところで科学技術ジャーナルという科学技術庁広報誌の次号に「純文学と基礎科学」という文を書きました。まだ発行されていないのですが、出たら読んで下さい(発行後、この欄にも載せようと思っています)。そこで文化について考えています。また、昨日はダンスの専門家達とのコラボレーションをしましたが、これも科学の表現の一つだと考えてやっています。こちらから普及だ啓蒙だと言わなくても、ダンスの人たちが自分自身の感性で、私と同じものを感じとってくれていることがはっきりとわかり(競演して下さった岩下徹さんだけでなく、この会に参加したアメリカ、イスラエルなどの人たちとも話し合ってそれを感じました)、これが科学が文化であることの一つの証しだと実感しました。
 他の御質問もありますが、長くなりますので。是非BRHにいらして感じとっていただければ幸いです。
 もう一人、上野さんという方からの、筑紫哲也さんの番組で生命誌と崔さんとのコラボレーションのフィルムを紹介して下さった時の私の発表についての感想をいただきました。最近、若い人が "なぜ人を殺してはいけないのか" 問うたことについて、「生命の重みはこれだとは言えないけれど生命誌を研究していて一つ一つの生命体に40億年近い歴史があると思うとそれだけでもおろそかにできない」と言ったことについて、そのようなことを伝えれば、殺人を起こさないと思っているのではないかと懸念するというお話です。人を殺すという行為については私自身はそれをイメージするだことさえできないというのが実情なのでどう考えてよいのか分からないのですが。生命の重さを伝えればそれで人を殺すことがなくなるなどと思うほど事柄を単純に考えているわけではありません。こういうことは一言で言えるものではないことはわかっていながら、まさにちょっと一言でしかありませんが、感想へのお礼の気持ちとして書きました。

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