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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【知識と知恵のこと】

2000.5.1 

 食べものの安全性が話題になっています。遺伝子組換え作物が商品化されたことから、これを食べても大丈夫だろうかという疑問が出されているのです。なんでも自分で考えてみることは大事ですから、大丈夫かという疑問をもつのは悪くありません。
 けれどもこの場合、問題点が二つあると思うのです。まず知識です。どうも多くの方の意見−投書やアンケートの答−を聞いていると、「遺伝子組換え技術は危険だ」という思い込みがあるように思います。それは知識として間違いです。ここで大事なことは、遺伝子組換え作物だから危険という受け止め方は間違っているということです。遺伝子組換え技術そのものは決して危険ではありません。もちろん新しい技術を使う時は100%安全という保証はないわけで、“安全性のチェック”は常に行われなければなりませんが、遺伝子組換え技術の場合、これは体系的に行われています。けれども、どんなにチェックしても100%安全という答は出てこない。とくに、長い間食べ続けた時にどうなるかと問われた時には、恐らく問題はないと思いますとしか言えないのは当然です。そもそもこれまで私たちが食べてきたものも100%安全と保証されているわけではありません。
 日常食べているジャガイモも芽にはソラニンがあるのでとるとか、青梅には分解すると青酸になる物質が入っているのでそのままは食べないとか…、これは昔から日常の中で伝えられてきたことです。梅などは、明らかに危険とわかっていながら、それを上手に食べる工夫をしてきているわけで、この工夫こそまさに知恵でしょう。100%安全かと問いただすのでなく、自分で工夫していくのが暮らしです。できるだけ安全なものを作る知識と、自分で安全を守る日常の知恵の組み合わせで、よりよい食べものを選んでいくのが賢明な生き方でしょう。遺伝子組換え食品についても、必要なのはそれかがよりよい食べものかどうかという判断です。それがよりよいかどうか。それは次回に。

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