館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【BREAK 2】
1998.10.15
9月15日の「BREAK」でいくつか本をご紹介しました。そのときは詳しくお伝えしなかったのですが、『オリーブ』という雑誌で中村先生が紹介された本の中に、『まど・みちお詩集』(ハルキ文庫)がありました。先生は、「読むといつも思うんです。この人、生命についてわかっているなと。書いている対象がほとんど自然。しかも本質をこんなに簡単な言葉で言い当てているのですから。」とコメントされています。先日、その訳のわかった出来事がありましたので、今回の「ちょっと一言」は「BREAK2」とさせていただきます。
この絵は、第一部「生命をみつめる詩と科学」で使われたラファエロの「アテネの学堂」の一部分です。右の掌を地に向けているアリストテレス(右側)は、いろいろな生き物がいることに目を向け、右手で天を指差したプラトン(左側)は、いろいろいるけれど生きている点では同じということに目を向けました。アリストテレスやプラトンは紀元前のひと。この時代からすでに、生き物の多様性と共通性を見つめる目はあったのです。 まどみちおさんの詩に、生き物がそれぞれの生き方で生きていることを歌ったものがあります。 ゾウ1 しっぽが しっぽで しんぼう している ゾウ2 すばらしい ことが あるもんだ ゾウが ゾウだったことは ノミでは なかったとは ケムシ さんぱつは きらい カマキリ おもちゃの カンガルー プラトンやアリストテレスの時代から生き物を多様性と共通性から見つめる目はあったけれども、その2つの視点はなかなか統合されませんでした。20世紀の後半になって地球全体での生物の多様性という考え方が生れ、一方、すべての生物に共通のDNAが発見されたことにより、それらが一つになる時代が来た、と先生はおっしゃいます。生き物を作っている細胞の核の中にはDNAがあり、ひとつの細胞にあるDNA全体は種によって少しずつ異なります。DNAには、生き物の38億年の歴史と生き物どうしの関わりを知る鍵があるはず。生命誌の研究者はそのように考えながら生き物を見つめています。いろいろいるけれど、同じ・・・まどみちおさんの「アリくん」を聴いてみましょう。 アリくん アリくん きみは だれ にんげんの ぼくは さぶろうだけど アリくん アリくん きみは だれ アリくん アリくん ここは どこ にんげんで いえば にっぽんだけど アリくん アリくん ここは どこ 詩、歌、絵、サイエンス、それぞれ一つずつでも味わい深いけれど、それらがうまく集まるとなんて世界がひろがるんだろう、そんなことを感じる出来事でした。 |