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研究館より

ラボ日記

2024.01.16

数理モデルを構築しながらクモの胚の形作りの精巧さに驚く日々

明けましておめでとうございます。1月のラボ日記なので、とりあえず今年の抱負を述べておきます。今年の抱負は、「クモの胚発生をベースとした遺伝子のネットワークで制御される胚の形作りの数理モデル研究をまとめます」です。というのは、2年前にクモの胚発生をベースとした胚の形作りの数理モデルの論文を発表しましたが、その数理モデルには、生物を研究する上で重要な遺伝子の情報を、胚を形作る細胞集団の動きに上手く反映できる仕組みはまだ導入されていませんでした。しかし、それから日々試行錯誤して研究を進めることで、現在の数理モデルでは遺伝子発現のネットワーク情報に基づいて、細胞集団を動かし胚の形作りを実行する数理モデルを構築することができました。

この数理モデルを構築するために、クモの胚の形作りをコンピュータで再現できるように日々試行錯誤していると、実際のクモ胚の形作りの精巧さには驚かされます。実際のクモ胚では、遺伝子発現のパターン形成と胚の形作りが同時並行で進行します。これは、言うなれば、紙に絵を描くとその紙が描いた絵に従って動き、その動く紙にまた絵を描かないといけないというなかなか大変そうな作業です。このような細胞集団が動きながらの遺伝子発現のパターン形成の数理的な解析はまだあまり行われていません。クモ胚の精巧な形作りの背後にある数理的な法則を見つけることが面白いと思って研究しています。

胚の形作りの数理モデルは、細胞集団を動かす数式をプログラミングして計算機実験によりコンピュータ上で実行されます。ただ、とりあえず何か数式を与えただけでは、やはりコンピュータの中の仮想の胚はなかなか実際のクモ胚のような胚の形になりません。実際の生物も数学や物理の法則に従って生きているので、上手く数式を設定することができれば、コンピュータ上でも胚の形作りを再現することは可能であるはずです。この生き物を記述する数式を日々求めて、数理モデルにより実際のクモ胚のような胚の形作りがコンピュータ上で再現できるように試みてきました。日々の苦労のおかげか、構築している数理モデルは、徐々にですがクモ胚らしい胚の形作りに近付いてきています。この研究の成果を論文にまとめて発表できるように今年の抱負を抱いて頑張りたいと思います。いずれ、皆さまにもこの研究成果を報告できることを願っています。

藤原基洋 (奨励研究員)

所属: 細胞・発生・進化研究室

生物の形作りにおける物理背景、特に力学に興味があります。力学を基にした数理モデルを構築し、コンピュータ上でクモ胚の形態形成を再現することで、生物の形作りのルールを見つける研究を行っています。