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研究館より

ラボ日記

2024.01.05

地味だけど大切な実験

昆虫と植物と化学物質の関係を解析して、異なる生物がどの様に関わりあっているのか知ろうという研究を行っています。この過程で大量のデータを扱っていて、一般向けにデータベースとして公開したり、機械学習を解析に取り入れたり、という取り組みも行っています。
最新の技術を用いた解析研究には【派手】さがあるようにも思いますが、そこから得られた結果は「現時点ではそう考えるのが最も正解に近いと期待される」という【推測】です。科学的根拠を持っての推測なので、個人的な空想や妄想とは違いますが、それでも推測なのです。何かスッキリとしませんね。

どうしたらスッキリとできるのでしょうか?

さらにデータを増やしたり、より高精度な解析を追加したり、間違っている可能性を極限まで小さくするというのも一つの解決策ですが、別の角度から証拠を追加すると根拠が大幅に強化されます。

実験です。

解析研究で得られた結果について、実際に理論通りになるのか生き物に聞いてみるのが確実です。

今取り組み中の解析で、どうやらアゲハチョウたちは共通祖先が持っていた解毒機能を目的外流用して食性転換をすることができたのではないかという結果が得られています。
本当にそうなのかアゲハチョウたちに聞いてみましょう。
当ラボでは、独自に開発した人工飼料プロトコールでアゲハチョウを飼育しています。人工飼料の良いところは、普段通りの飼育なら生の葉と同等の発育と生存率になるので、信頼できる比較対象になりつつ、生の葉では難しい“食草ではない植物”を簡単に食べさせることができる事です。
人工飼料は、市販の昆虫用基礎試料に葉の粉末を混ぜて作ります。通常は食草の粉末を使いますが、別の粉末を混ぜることも自由自在なのです。
そこで、実際には食草として利用していないけれど、持っている化学物質の解析では食べられると【推測】された植物の葉の粉末を混ぜ込んで食べさせるという、めっちゃ【地味】な飼育・生存率確認実験を行っています。

さてさて、どの様な結果が得られるのでしょうか。昆虫たちが教えてくれた答えは、論文として報告すると思いますのでお楽しみに。

アゲハチョウを研究材料として、様々な生き物がどのように関わり合いながら「生きている」のか、分子の言葉で理解しようとしています。