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研究館より

ラボ日記

2019.12.02

メタ解析は先人への敬意

メタ解析って何?


Wikipediaから引用すると「メタアナリシス(meta-analysis)とは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことである。メタ分析、メタ解析とも言う。」とあります。個人的に解釈すると、先人達の努力によって蓄積された研究成果をまとめて、新しい知識を抽出する取り組み方で、最も信頼度の高い結果が得られる研究手法だと考えています。医療分野では特に、注目に値する成果もたくさんあります。メタ解析から得られた知見を生活に取り入れたら、「科学的に正しい健康法」「科学的に正しいダイエット」「科学的に正しい筋トレ」などなど、確実に目標に近づくことができて、効率の良い生活ができるはずです(図1)。しかし、論文として報告される「科学の知見」は、研究者以外の方々には触れる機会も少なく馴染みがないので、生活に取り入れるのも難しいかも知れません。ここは研究者や我々生命誌研究館がもっと努力をしなければならないところのひとつでしょう。

 
図1 科学的に正しいダイエットを1年間実践しました。安定して「体重の減少=体脂肪率の低下」という状態が続き、健康体重になってからは変化がなくなり、長期的に維持できています。つまりリバウンドとは無縁です。
 

InsectInDBもメタ解析


生命誌研究館は「科学のコンサートホール」です。論文を発表しただけでは終わらせず、それを楽譜として全ての人に科学を楽しんでいただくための活動をしています。チョウが食草を見分けるしくみを探るラボでは、昆虫と植物の関係をより深く理解するために、図鑑や論文といった先人たちの知恵からデータを集めたメタ解析を行い、蝶が食草を変える時にどんなことが起きているのかについて解明に近づく新たな理論を発見し、生態学・昆虫学・生命情報科学など複数の分野の研究者から注目を集めました。論文の内容については、こちらで簡単な解説をご覧いただけます。とは言っても、日本語の解説を読んだところで、日常の中のひとつとして科学を楽しんでいるとはならないですよね。

この研究の過程で、チョウと食草と化合物の関係を解析するためのデータベースを、共同研究者の協力を得て作成しました。図鑑や論文に記載されている情報を全て頭の中に入れて、自在に活用できる人は稀にしかいないと思いますが、データベースとして整備されて入れば、研究者に限らずいろんな人が使うことができます。InsectInDB(インセクト・イン・ディービー)と名付けたこのデータベースは、僕自身、実際に今も研究に活用しているのですが、そのまま誰でも利用できるように公開しています。が、極限までシンプルに設計されたインターフェースに表示言語が英語なので、ほとんどの人には使い難い残念仕様だと思われます。ありがたいことに、ライフサイエンス統合データベースセンターでInsectInDBの使い方を解説した動画を作成してくださっていますが、それでもまだまだ敷居が高いと思われます。

このままではイカンと思うのと、僕にとってももっと快適に研究できるようにするため、使いやすいインターフェースを追加する取り組みを行なっています(図2)。ネットワーク解析の図をグリグリと動かすことができますので、きっと誰でも簡単に蝶と植物の関係を解析できるようになると思います。この新機能もそのまま皆さんに使っていただけるように、来春公開予定です。公開の際には、何らかの形で多くの方に知っていただけるような告知を行いたいと考えていますので、楽しみにしていてくださる方がいらしたら嬉しいです。「解析するぞ!」とか「これを使って研究するぞ!」と気負って取り組んでいただく必要はありませんので、まずは「こいつ動くぞ!」という感じの軽い気持ちで触ってみていただきたいです。InsectInDBには先人たちの努力によって構築された莫大な情報が収められていますし、まだまだ抽出できていない新しい知識がたくさん埋もれているはずです。次はあなたが、その発見者になってください。

さらに、来館者の方にはもっとわかりやすく、楽しく研究の現場に触れていただきたいと思いますので、食草園を入り口にしてInsectInDBに触っていただく仕組みを表現セクターと連携して構築する予定です。

生命誌研究館ならではの、最新の研究に直接触れて、研究の現場の雰囲気を味わいつつ、科学を日常に取り入れられる活動に発展させたいと考えています。この活動を観察し続けていただくと、研究が進展する瞬間や、新たな知見を発見する瞬間に立ち会っていただけるかもしれません。研究活動の臨場感そのものをコンテンツ化する、全く新しい挑戦です。


図2 昆虫と植物の関係を視覚的に解析できるネットワーク図。各要素を自由自在に動かすことができるので、解析作業を強力にサポートすると同時に、一般の方にも使いやすいものになる予定。
 

アゲハチョウを研究材料として、様々な生き物がどのように関わり合いながら「生きている」のか、分子の言葉で理解しようとしています。