中村桂子のちょっと一言
2025.03.18
タコの心、ハチの知性
読みたい、読もうと思う本が目の前に積んであります。ゆっくり本を楽しむ時間がもっと増えるはずでしたのに、先回も書きましたように「絵巻」の活躍で私の時間もそちらに引きずられ、積み上がる本の数が増えているのはちょっと困ったことです。
そのような読書の中で気づくのは、欧米の生物研究者の明らかな変化です。チンパンジーやボノボの観察を通して、人間のもつ共感や道徳などの起源が動物にあるとしてきたフランス・ドゥ・ヴァールは、新著『サルとジェンダー』でこのように言っています。「人間は動物である。多くの学問分野が人間の独自性を強調するが、その見方は現代科学とは相容れない」。そして類人猿に対しては、which、itなどを使わず、who、he、sheという言葉を使うのです。相手を見下すような態度はよくない。仲間として見ていこうという気持ちだとヴァールは言います。
その隣に『ハチは心を持っている 一匹が秘める驚異の知性、そして意識』(ラース・チットカ:著 みすゞ書房)、『タコの精神生活 知られざる心と生態』(ディヴィッド・シール:著 草思社)があります。ハチとタコの研究者が、心、知性、意識などと言う言葉を使っているのです。心、知性、意識については、まだ分かっていないことが多いので、これらの言葉の使い方には難しさがありますが、ここで興味深いのは、欧米の研究者がハチやタコにそのような言葉を用いているということです。「自分がハチになったつもりで」とか「タコがどのような世界を体験しているか知りたい」と研究者は語ります。これらの本に登場するハチもタコも、確かになかなか賢く、仲間になってみたいところがあります(具体例はまたいつか)。
以前、京大が高崎山のサルの研究で、個体に名前を付けた時、欧米の研究者が客観性を欠くと言って非難したことを思い出します。人間が生きものの中に入っている「生命誌絵巻」は欧米の人に理解されますかと聞かれることが多いのですが、少なくとも私がおつき合いする方は、誰もが興味を示し、共感して下さいます。生きもの研究が、「みんな仲間」という事実を示し、多くの人がその感覚を持ち始めているのが21世紀なのだとつくづく思います。
これらの本の隣には、AIの本が何冊かあります。まだ読みかけですが、人間は40億年近く続いてきた生きものの仲間であるということへの関心に欠けているのが気になります。チンパンジーからタコやハチ、更にはバクテリアまでつながる生きものというシステムが、私たちが生きることを支えているのです。このシステムの見事さに気づかずに、人間が集めた大量データさえあれば何でもできると考えるのは大間違いではないでしょうか。そう思えて仕方ありません。
そのような読書の中で気づくのは、欧米の生物研究者の明らかな変化です。チンパンジーやボノボの観察を通して、人間のもつ共感や道徳などの起源が動物にあるとしてきたフランス・ドゥ・ヴァールは、新著『サルとジェンダー』でこのように言っています。「人間は動物である。多くの学問分野が人間の独自性を強調するが、その見方は現代科学とは相容れない」。そして類人猿に対しては、which、itなどを使わず、who、he、sheという言葉を使うのです。相手を見下すような態度はよくない。仲間として見ていこうという気持ちだとヴァールは言います。
その隣に『ハチは心を持っている 一匹が秘める驚異の知性、そして意識』(ラース・チットカ:著 みすゞ書房)、『タコの精神生活 知られざる心と生態』(ディヴィッド・シール:著 草思社)があります。ハチとタコの研究者が、心、知性、意識などと言う言葉を使っているのです。心、知性、意識については、まだ分かっていないことが多いので、これらの言葉の使い方には難しさがありますが、ここで興味深いのは、欧米の研究者がハチやタコにそのような言葉を用いているということです。「自分がハチになったつもりで」とか「タコがどのような世界を体験しているか知りたい」と研究者は語ります。これらの本に登場するハチもタコも、確かになかなか賢く、仲間になってみたいところがあります(具体例はまたいつか)。
以前、京大が高崎山のサルの研究で、個体に名前を付けた時、欧米の研究者が客観性を欠くと言って非難したことを思い出します。人間が生きものの中に入っている「生命誌絵巻」は欧米の人に理解されますかと聞かれることが多いのですが、少なくとも私がおつき合いする方は、誰もが興味を示し、共感して下さいます。生きもの研究が、「みんな仲間」という事実を示し、多くの人がその感覚を持ち始めているのが21世紀なのだとつくづく思います。
これらの本の隣には、AIの本が何冊かあります。まだ読みかけですが、人間は40億年近く続いてきた生きものの仲間であるということへの関心に欠けているのが気になります。チンパンジーからタコやハチ、更にはバクテリアまでつながる生きものというシステムが、私たちが生きることを支えているのです。このシステムの見事さに気づかずに、人間が集めた大量データさえあれば何でもできると考えるのは大間違いではないでしょうか。そう思えて仕方ありません。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶