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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2025.03.04

「生命誌絵巻」の活躍

最近感じているのが、「生命誌絵巻」への関心の高まりです。関心を越えて共感と言った方がよいかもしれません。

ある勉強会で、私を含めて3人が話をしたのですが、他の2人が、話の中で「生命誌絵巻」を使われました。「有機土木」を考えている方たちですので、生命誌を理解し、共感して下さっていることは分かっていました。でも、話の中で「絵巻」を使うということは、共感を越えてご自身の考えになっていると思ってもよいのではないでしょうか。社会学と土木の方でしたので、それぞれの分野から現在の社会を見た時に、生命誌の考え方が必要になっているということですから、本当に嬉しく思いました。

先先回の「一言」で、梼原の小学生の、とても素敵な絵巻の見方を紹介しましたが、先日話を聞いてくれた(オンラインでしたが)小学生、中学生も絵巻への反応が見事でびっくりしました。とくに響いたと言われたのが、「フラットとオープン」というところで、たくさんの生徒さんが、「これっていいね」と言ってくれました。ただ、これは今の社会がこの形になっていないことを示していると受け止められます。その逆は「格差と分断」ですから、子どもたちをその中に置かないよう考えなければなりません。

もう一例です。東北大学名誉教授で、沖永良部島に移住して「一つの地球で生きる暮らし」の実現に努力していらっしゃる石田英輝先生とご一緒する会がありました。今の日本での平均的暮らしは地球を2.8個必要とすると言われています。都会にいて、地球1個分のエネルギーや物質の循環で暮らすにはどうしたらよいかしらと考えると頭が痛くなります。「沖永良部島なら楽しく暮らせるよ」とコニコしている先生も「生命誌絵巻」仲間でした。

2月の最後の1週間の体験です。この後NHK の「視点・論点」で、「生きものにはない格差と分断」という話をしましたので、ほぼ毎日「生命誌絵巻」の周りで人々と語り、考えていたことになります。どの場合も、私が説明するというのではなく、皆さんのものになっている「絵巻」だったことに驚いています。

大きな世界はトランプ大統領やAI騒ぎで揺れていますが、「地球という星で生きものとして生きる」という、多分この方が本来だと思う生き方をしようとしている人も少なくなく、それを語っている方が楽しそうと実感しています。

ところで、生命科学の研究者は何を思っているのか。分からないのが悩みです。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶