中村桂子のちょっと一言
2025.02.18
映画『メアリー・ポピンズ』のメッセージ
先日NHKのラジオで、放送100年を機に「今の日本とこれからの100年」を考えるという話し合いに参加し、これからを考えるにあたって思い起こす曲のリクエストを求められました。そこでふと浮かんだのが、なぜか、ディズニー映画『メアリー・ポピンズ』でした。決まり事でがんじがらめの毎日にうんざりしている子どもたちのところに、空から舞い降りてきた家庭教師のメアリーは、小さな魔法で日々を楽しくする名人です。「スーパーカリフラジェリスティックエクスピアリドーシャス」とおまじないを唱えると、思いがけない体験ができます。絵の世界に入って、そこに描かれた豊かな自然を思い切り楽しみ、競馬にも参加するなど、自由を満喫できるのです。子どもにとっては自然が大事、自由が大事、そのような楽しい時間を持たなければ、本当に生きていることにはならないというメッセージです。生命誌でもまったく同じように考えていますので、こんな未来ががいいぞと思ったのです。
念のため久しぶりにDVDを取り出して鑑賞したら、メッセージはそれだけではないことに気づきました。
1910年のロンドンに暮らすバンクス家は、両親と姉のジェーン、弟のマイケルの四人家族で、お父さんはお金を増やすことが最も大事と思っている謹厳な銀行マンです。貧しいおばあさんが2ペンスで売っている鳩の餌を子どもたちが買おうとすると、「ムダはいけない。お金は銀行に入れなさい」と言います。そんな父親も、メアリーや、彼女の大事なお友だちで自由人のバートと接しているうちに、お金だけ、仕事だけが人生ではない、子どもと一緒に過ごす時間を持ち、楽しい日常を送ることが大事だと気づくのです。この映画は、はたらき方改革の話でもあるのでした。
この映画が製作された1964年を思い出すと、アメリカは私たち日本の若者にとっての夢の国でした。物の豊かさこそ幸せと思わせる映画やテレビドラマを見て、憧れていたことを思い出します。その中でディズニー映画は、子ども向けの楽しいアニメーション・ミュージカル・ファンタジーとして受け止めていました。ところがどうして、この映画は、教育、家庭、仕事、お金など、今まさに私たちの国で問題になっている、暮らしの基本について考えさせるものだったのです。
舞台は1910年のロンドンで、お母さんは婦人参政権を求めての活動に熱心です。各家庭の煙突からは黒い煙がもくもくと出て空はどんよりしており、煙突掃除屋さんが大活躍、エッセンシャルワーカーです。映画の中の暮らし、映画がつくられた時の社会、そして21世紀になった今を考えると、この100年間、人間変わっていないとも言えますし、暮らしに関わる問題はいつも厳しく、ますます深刻になっている面が少なくないと思えます。今突然気候変動やパンデミックがおきたのではなく、かなり以前から、どこかおかしい、考えなければならないことがあるという思いを抱えながらここまで来てしまったのだということでしょう。この辺で、そろそろ本当の生き方を考えなければ間に合わないのではないかと思います。
機会がありましたら、『メアリー・ポピンズ』をご覧になって下さい。楽しみながら、いろいろ考えさせられます。素敵な音楽がたくさんありますが、リクエストは「お砂糖ひとさじで」にしました。
念のため久しぶりにDVDを取り出して鑑賞したら、メッセージはそれだけではないことに気づきました。
1910年のロンドンに暮らすバンクス家は、両親と姉のジェーン、弟のマイケルの四人家族で、お父さんはお金を増やすことが最も大事と思っている謹厳な銀行マンです。貧しいおばあさんが2ペンスで売っている鳩の餌を子どもたちが買おうとすると、「ムダはいけない。お金は銀行に入れなさい」と言います。そんな父親も、メアリーや、彼女の大事なお友だちで自由人のバートと接しているうちに、お金だけ、仕事だけが人生ではない、子どもと一緒に過ごす時間を持ち、楽しい日常を送ることが大事だと気づくのです。この映画は、はたらき方改革の話でもあるのでした。
この映画が製作された1964年を思い出すと、アメリカは私たち日本の若者にとっての夢の国でした。物の豊かさこそ幸せと思わせる映画やテレビドラマを見て、憧れていたことを思い出します。その中でディズニー映画は、子ども向けの楽しいアニメーション・ミュージカル・ファンタジーとして受け止めていました。ところがどうして、この映画は、教育、家庭、仕事、お金など、今まさに私たちの国で問題になっている、暮らしの基本について考えさせるものだったのです。
舞台は1910年のロンドンで、お母さんは婦人参政権を求めての活動に熱心です。各家庭の煙突からは黒い煙がもくもくと出て空はどんよりしており、煙突掃除屋さんが大活躍、エッセンシャルワーカーです。映画の中の暮らし、映画がつくられた時の社会、そして21世紀になった今を考えると、この100年間、人間変わっていないとも言えますし、暮らしに関わる問題はいつも厳しく、ますます深刻になっている面が少なくないと思えます。今突然気候変動やパンデミックがおきたのではなく、かなり以前から、どこかおかしい、考えなければならないことがあるという思いを抱えながらここまで来てしまったのだということでしょう。この辺で、そろそろ本当の生き方を考えなければ間に合わないのではないかと思います。
機会がありましたら、『メアリー・ポピンズ』をご覧になって下さい。楽しみながら、いろいろ考えさせられます。素敵な音楽がたくさんありますが、リクエストは「お砂糖ひとさじで」にしました。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶