中村桂子のちょっと一言
2025.01.15
今年もやはり生きものとして──DNAの絵本をつくりながら考えました
新年おめでとうございます。どのような年明けを過ごされましたでしょうか。
今年も例年通りのおせちを用意したのですが、暮れにお友だち(男性)が御自分でつくった黒豆を届けて下さったのが、今年の特別事項でした。一粒一粒がふっくらとし、ほどよい甘さの本当に美味しい黒豆でした。我が家は男性の参加がないものですから、そのみごとさにびっくりでした。男性の調理能力が優れていることは分かっていながら、暮れの台所ではたらいているのは女性という先入観が抜けていないのですね。
絵本、『あなたの中のふしぎ DNA』が1月半ばの入稿なので、お正月は「二重らせん」とのおつき合いで過ごしました。昨年の7月2日に『DNAはまほう』という文を書きましたが、その頃からDNAのことを考える日々が続いています。
今ではほとんどの方が「DNA。遺伝子ですよね。二重らせん構造をしているんでしょ」という知識はお持ちでしょう。そうなのですが、改めてDNAと向き合ってみると、「こんなものがどのようにしてできたのだろう」ととてもふしぎでなりません。「こんなもの」という言い方をしましたが、他に同じようなものがないのでつい。大学は化学科でしたから、授業で炭素化合物全体を学びました。メタンから始まり、だんだん複雑になりますが、どの物質もなるほどそうなりますねと分かる構造をしています。ところがDNAだけは違うのです。A、T、G、Cが対になって並び、そこに他の物質(タンパク質)をつくるための情報が入っているなんて、ふしぎ過ぎます。ここから生きものが生まれ、DNAは40億年もの間不変のシステムとして続いたこと、さらにそこから多様な生きものが生まれる絶妙さには、つい「DNAのまほう」と言いたくなってしまいます。
遺伝暗号(コドン)表は御存知ですか。DNAのA、T、G、Cという塩基の並びの三つづつがアミノ酸の並びをきめる暗号になっているのですが、それがみごとな暗号表にまとめられます。40億年も前からずっと使われている暗号表ってすごくありませんか。
自然を知ろうとした科学は、まず「物質」に注目しました。身の回りにある石や土や木の性質を知り、利用しました。次にエネルギーに気づきました。目には見えないけれどものを動かしたり、温めたりする何かがあると。そして最後に登場するのが情報です。暗号もその一つです。今や情報の時代で、皆情報ばかりに目を向けていますが、生きものは、DNAという情報をもとに物質(タンパク質など)もエネルギー(光合成などに用いる光エネルギーなど)も上手に組み合わせたシステムです。感覚器官、更には脳神経が生まれて、そこで扱われる情報が今、急速に膨らんでいます。AIの時代で何でもAI、AIが人間を超えると言い、AIさえあれば何でもできるかのような雰囲気です。でも、40億年という長い間続いてきたという実績と、その基本にある情報をとてもみごとに活用してきたDNAの存在を踏まえて、やはり生きもののもつ力に目を向けて、そこから答えを探す方が本物だと思うのです。
文明は自然離れの方向へと進んできましたけれど、20世紀後半から21世紀にかけて、ここまで生きもののことが分かってきたのですから、自然をよく知ったうえで自然を活かす文明をつくるのが、生きものである人間の選ぶ道ではないでしょうか。DNAの絵本はつくるのはとても難しくて、うまくできたかどうか分からないいうのが正直なところで悩んでいます。でも、DNA のことを丁寧に考えなければならないという気持ちは強くなりましたので、今年も相変わらずではありますが、より深く生きもののことを考えて行こうと思います。
本年もよろしくお願いいたします。
今年も例年通りのおせちを用意したのですが、暮れにお友だち(男性)が御自分でつくった黒豆を届けて下さったのが、今年の特別事項でした。一粒一粒がふっくらとし、ほどよい甘さの本当に美味しい黒豆でした。我が家は男性の参加がないものですから、そのみごとさにびっくりでした。男性の調理能力が優れていることは分かっていながら、暮れの台所ではたらいているのは女性という先入観が抜けていないのですね。
絵本、『あなたの中のふしぎ DNA』が1月半ばの入稿なので、お正月は「二重らせん」とのおつき合いで過ごしました。昨年の7月2日に『DNAはまほう』という文を書きましたが、その頃からDNAのことを考える日々が続いています。
今ではほとんどの方が「DNA。遺伝子ですよね。二重らせん構造をしているんでしょ」という知識はお持ちでしょう。そうなのですが、改めてDNAと向き合ってみると、「こんなものがどのようにしてできたのだろう」ととてもふしぎでなりません。「こんなもの」という言い方をしましたが、他に同じようなものがないのでつい。大学は化学科でしたから、授業で炭素化合物全体を学びました。メタンから始まり、だんだん複雑になりますが、どの物質もなるほどそうなりますねと分かる構造をしています。ところがDNAだけは違うのです。A、T、G、Cが対になって並び、そこに他の物質(タンパク質)をつくるための情報が入っているなんて、ふしぎ過ぎます。ここから生きものが生まれ、DNAは40億年もの間不変のシステムとして続いたこと、さらにそこから多様な生きものが生まれる絶妙さには、つい「DNAのまほう」と言いたくなってしまいます。
遺伝暗号(コドン)表は御存知ですか。DNAのA、T、G、Cという塩基の並びの三つづつがアミノ酸の並びをきめる暗号になっているのですが、それがみごとな暗号表にまとめられます。40億年も前からずっと使われている暗号表ってすごくありませんか。
自然を知ろうとした科学は、まず「物質」に注目しました。身の回りにある石や土や木の性質を知り、利用しました。次にエネルギーに気づきました。目には見えないけれどものを動かしたり、温めたりする何かがあると。そして最後に登場するのが情報です。暗号もその一つです。今や情報の時代で、皆情報ばかりに目を向けていますが、生きものは、DNAという情報をもとに物質(タンパク質など)もエネルギー(光合成などに用いる光エネルギーなど)も上手に組み合わせたシステムです。感覚器官、更には脳神経が生まれて、そこで扱われる情報が今、急速に膨らんでいます。AIの時代で何でもAI、AIが人間を超えると言い、AIさえあれば何でもできるかのような雰囲気です。でも、40億年という長い間続いてきたという実績と、その基本にある情報をとてもみごとに活用してきたDNAの存在を踏まえて、やはり生きもののもつ力に目を向けて、そこから答えを探す方が本物だと思うのです。
文明は自然離れの方向へと進んできましたけれど、20世紀後半から21世紀にかけて、ここまで生きもののことが分かってきたのですから、自然をよく知ったうえで自然を活かす文明をつくるのが、生きものである人間の選ぶ道ではないでしょうか。DNAの絵本はつくるのはとても難しくて、うまくできたかどうか分からないいうのが正直なところで悩んでいます。でも、DNA のことを丁寧に考えなければならないという気持ちは強くなりましたので、今年も相変わらずではありますが、より深く生きもののことを考えて行こうと思います。
本年もよろしくお願いいたします。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶