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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2024.09.03

月に行っていただきたい方たち

8月は毎年真剣に戦争について考えざるを得ません。先回引用した広島の子どもたちの言葉で分かるように、今年はそれがより深刻になっています。太平洋戦争での敗戦後、私たちは戦争をしないという選択をしてきました。79年の間には、自衛隊のあり方、武器輸出など難しい問題がありましたが、「日本国憲法」にある戦争放棄を基本に行動するという最低限の線は守ってきました。

この世に生を受けたものが行うものではない、やってはいけないこと。子どもではあっても、それぞれが辛い体験をした私の世代は、戦争をそのように受け止めています。けれども今、急速に雰囲気が変わりつつあります。

世界中が戦争を前提に動いています。どこに武器を送るか、どのように援助をするか。日本もその中で動き始め、戦争のない社会へ向けての発信をするよりも、戦争仲間に入ろうとする人たちがリーダーになろうとしています。

すべてが競争とその結果の覇権争いになっている今の社会が、戦争を当然とする考え方を生んでいるのでしょう。それは宇宙開発にも見えます。地球という星ときちんとおつき合いできず、気象を変え、災害を引き起こしている人たちが、宇宙にまで手を伸ばしての開発競争です。宇宙を知り、地球を知っての暮らし方を考えるのが先でしょう。

月へ人を送る技術を是非活用していただきたいことは、他にあります。月着陸をした米国宇宙飛行士R・ミッチェルが言っています。「宇宙から地球を見ると、たちどころに地球への意識が生まれ、人類全体に目が向きます。そして世界の現状を深く憂い、それを変えるために何かしなければという気持ちになるのです。月から地球を眺めたら、国際政治などまるでちっぽけなことに思えてきます。政治家の袖をぐいとつかんで、25万マイル上空の月まで引っぱり上げて、こう言ってやりたくなる。卑劣なやつめ、この光景を見てみろとね」

月の開発よりこちらが先ではありませんか。宇宙船に乗っていただきたいリーダーの顔が次々浮かんできます。戦争はバカバカしいと心の底から思える人になって下さいますように。そして地球では生命誌を学んで下さいますように。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶