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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.02.15

若い人がこんな風に考えてくれました

「第67回青少年読書感想文全国コンクール」で入賞した高校2年の女子生徒の『科学と共に』という文を、編集者がメールで送ってくれました。私の『科学者が人間であること』(岩波新書)を読んでの感想文だったからです。(個人名が書けず残念です)

「この本と出会うまで、私にとって科学は『万能なもの』であった。科学に憧れ、世界の謎を解明する魔法使いのような科学者になりたかった。」
というところから始まります。そしてこの本を読むことによって、
「科学者を何でも叶えられる『魔法使い』として見るのではなく、一人の人間として捉え直すことが必要であるという筆者の主張に共感した。科学者はわからないものと向き合い、肉眼を越えた世界を見ることが許された存在だ。それゆえ、恩恵を受ける人間が生き物であることを認識し、日常における科学を見落とさない科学者が求められるのだと感じた。
 また同時に、科学を語るには様々な分野の知識が必要であると感じた。理系、文系という枠に留まらず、知の世界を自在に越境する人になることが科学をもっと面白く、豊かにするのではないか。」

一人の若者がこんな風に考えてくれる姿を思い浮かべると、嬉しくなります。これからいろいろな本を読んだり、科学そのものを勉強したりしていくことで、「もっと面白く、豊かな学問」をつくっていく人になってくれるのではないかと期待が生まれます。

年を重ねると一番気になるのは、次の時代をつくっていく若い人たちです。とくに今は、人類にとっての転換期であり、科学は社会をよい方向へ持っていく重要な役割をもっていると思うのです。その科学は、魔法使いではなく生きものとしての人間が生き生きと生きるためのものでしょう。

付記:節分に初めて「恵方巻」を作りました。

関西暮らしを始めた時にいろいろな「初めて」がありました。30年前は近くのスーパーマーケットに納豆がありませんでした。食パンの8枚切りも。4枚という厚いパンに驚きながら日常の思いがけない違いの発見を楽しんでいました。いつの間にか、納豆も8枚切り食パンも置かれるようになりました。

全く知らなかったのが「恵方巻」です。太巻きのお寿司を一本、恵方を向いて黙黙と食べるってどういうこと。そう思っているうちに、東京でも、いつの間にか始まっていました。コンビニの仕業かなと思います。今ではスーパーマーケットにも置いてあります。

そこで、コロナで外出なしの時間を使って作ってみようと思い立った次第です。と言っても、太巻きを作るだけのことですけれど。今年の恵方は北北西とあったのでそちらを向いて食べ始めましたが、黙っては無理。結局、いつもの夕食になりました。でも、久しぶりの太巻きは美味しかったです。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶