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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.10.01

おかしな道を歩きそうで気になります

植物に目を向け、農業を見直す大切さを考えているのは、これからの生き方に関心があるからです。

先週聞いた二つの話に考え込まされましたので紹介します。

一つは、雲仙市で固定種、在来種を30年も育てている方の話です。80種もの野菜を育て、そのうち60種を自家採取しています。固定種は種を取り自然育種しているうちに固定化したもの、その中である土地で育てているうちにそこに定着したものを在来種と呼ぶのです。実は、以前同じカボチャの種が福島、北海道、山口、熊本で育つとどうなるか見せて頂いて、その多様さに驚いたことがあります。今回は、それらを素晴らしいと思った方が販売の役を始めたという話があり、楽しそうで、暮らしの質が高くなっていると思いました。

もう一つは、水素エネルギープロジェクトです。オーストラリアに大量にある褐炭を用いて作った水素を船で日本に運ぶものです。出てきた二酸化炭素は現地で地中に埋めます。この水素で動く自動車に乗って、私はクリーンな生活をしていますと満足している様子を想像して恐くなりました。

新しい暮らしを探る活動を勉強している中で出会った例です。前者は地域の個人を出発点にした活動、後者は国や大企業が関わる大型プロジェクトです。大きな力とお金はこちらで動きます。

「生命誌」は、このようなことに対して判断の基準を提示できる知として作ってきました。答えは明快です。前者は皆で応援したい活動、後者には本質がわかっていませんねと疑問を投げかけざるを得ません。「科学に拠って科学を超える」。初めて生命誌を世に問うた時の言葉を改めて思い出しました。生きもの、自然についての科学の知をこのような形で活かしていく「生命誌」の役割は大事になってきたと感じています。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶