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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.08.17

いよいよ人間のことを考えなければ

生きものの世界で起きたエポック・メーキングな事柄として、DNAを基本に働く全生物に共通なメカニズム、光合成、真核細胞の登場による多細胞生物の誕生と基本の基本を考えてきました。ここから動物、植物が生まれ、5億年ほど前の上陸で、植物は森を作りその中で暮らす霊長類の一つから私たちの祖先であるヒトが誕生したのです。この間の生きものたちの物語を一つ一つ読み解き、そこから学ぶのが生命誌ですが、そこは研究館のホームページに任せます。ただ、ここに基本があることは忘れてはいけません。

今回原点に戻ったのには理由がありました。新型コロナウイルスの感染拡大、毎日35度を越える温暖化としか言えない気候などの体験から、「人間は生きものであり、自然の一部」という生命誌の基本に関心を持って下さる方が増えています。ただ、一方で、脱炭素、SDGsという掛け声で、一見自然を見ているかのようでありながら、実はイケイケどんどんは変わっていない政治・経済界の動きが、生きものへの関心を誤った道へ誘導しかねない状況でもあります。

そこで、途中は飛ばして、森で生まれた人間(ヒト)という生きものの生き方が現代の私たちにどうつながってきたかを見て行こうと思うのです。

ヒトに一番近いチンパンジーを見ると、今もアフリカの森で果物を主食とする生活を続けています。700万年ほど前にチンパンジーとの共通祖先から別れ、二足歩行をして森と草原の間に暮らす道を選んだのがヒトの祖先ですが、初期のヒトは滅びています。化石しか残っていません。森で果物を食べる選択の方が生きやすかったのでしょう。でも、次の世代のヒトであるアウストラロピテクスは、大型動物が食べ残した骨を食べて森の外でもかなり生き延びました。でもこれも消えました。その後に登場したホモ属が私たちに続くのですが、その特徴は道具の使用です。現代社会のありようは、まさに道具の発明によって支えられていると言えますから、ここで始まった石器の使用から現代の自動車、コンピュータにいたる道具の使用が、森といういのちの支えを離れた生き方の基本であり、それが私たちの考え方を作っていると言えるでしょう。そこを見直さなければ、生命の歴史物語を活かした社会にはなりません。

どう見直すか。メチャメチャ難しい話ですが、ゲノムまで調べたからには考えるしかありません。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶