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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.02.15

どの問題も他人事ではない

「私たち」で考えるのは、今とても大事です。現代社会では、私の大切さが強調されます。個の確立こそがよく生きることなのです。もちろん、生命誌でも唯一無二の私の存在の大切さは意識しています。長い生命の歴史の中で、ある時性が誕生し、唯一無二の個体を生み出す仕組みによって、すべての人が「私」として存在するようになったのですから。他のどこにもいない私が私として生きることに意味があるのは当然です。でもそれは、私が一人きりで生きるということではありません。そもそも、私が存在するには両親が不可欠です。しかも、人間はほぼ無力で生まれてきますから、育てて貰う長い時間があります。家族は不可欠なものです。生まれた時から、私は私たちの中にあります。


私たちの中の私と、私が私として生きることとは矛盾しません。今、新型コロナウイルスのパンデミックで外出を抑制され、人との接触が極端に少なくなっています。故郷に帰れない、病院にお見舞いに行けないなど、当たり前にしてきたことが禁じられてみて、人との関りなしには生きられないことが、改めて実感されています。


今日、新聞社の方がいらして、地球環境問題は今生きている人にとっては、まだ先の他人事ですと言っていました。私たちで考えると、それは他人事ではなくなります。未来を生きる人だって私たちに入りますから。今起きている社会問題のほとんどは、私たちから始めることで、誰もが解決に関われることばかりです。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶