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BRHサロン

探索と発見のフィールドワーク

佐藤哲

そいつを初めて見つけたのは、1996年1月12日。東アフリカ、タンガニイカ湖南部のウォンジィという小さな岬。その周囲の湖底が、ぼくのお気に入りのフィールドだ。そいつは水深9mのところで、ひたすら湖底の砂を扇(あお)いでいた。

全長50cmほどのナマズの一種。おちょぼ口の周りにわさわさとひげが生え、なかなかの愛敬者である。食べてもうまい。それが1匹、なぜかひたすら湖底を胸びれで扇ぎ続けている。その労力はただごとではない。体の下には円盤状のくぼみができ、砂は飛ばされて小さな礫(つぶて)だけが残っている。ぼくが近づいても逃げず、手を出すと怒る(目としぐさが怒っている)。こんなときは、卵を保護しているに決まっている。なのに、卵は見当たらない。周囲では、扇がれて飛び出す小エビ目当ての魚がわんさと集まって饗宴を繰り広げている。いったいなにごと??? 

タンガニイカ湖の水中で。

2度目の出会いは9月2日。ナマズの無言の抵抗を無視し、今度は礫の残るくぼみに手を入れてみた15cmほど掘ったあたりで、大きな卵黄を持った孵化したての子どもを発見。卵を深く埋めて隠し、ひたすら扇いで新鮮な水と酸素を送っているのだとわかった。なかなかよくできている。さて、扇いでいるのはオス?それともメス?先日、タンガニイカ湖にいるS君から連絡があった。オスだという。じゃ、なぜオスが? “?”がひとつ減り、ひとつ増えた。

タンガニイカ湖にすむ300種ほどの魚の自然誌を明らかにすることを目指すぼくにとって、生き物の世界を探索する旅は、発見の驚きに満ちている。不可解な現象に出くわし、考え、迷い、“?”を一つずつ解き明かしていく快感。これって、一人占めしたら罪かもね。

(さとう・てつ/南伊豆海洋生態ラボラトリー主宰)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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