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Special Story

生命をささえる運び屋分子

タマネギはどうやって丸くなる?
-ナノの管「微小管」のはたらき:柴岡弘郎

タマネギは秋に植え、春から初夏にかけて収穫する。冬の間はふつうのネギのように細長いタマネギが、春になるとタマになって膨らむのはなぜだろう。タマネギのタマが大きくなるのは、細胞が増えるためではなく、個々の細胞が断面積で9~10倍にも膨らむためである。このタマネギを丸く膨らますかどうかを決めているのが、直径わずか4000万分の1m(24ナノメーター)という小さな管「微小管」なのだ。

植物の細胞は、セルロースでできた細胞壁で囲まれている。細胞がどちらの方向に大きくなるかは、このセルロースの向きによって決まっている。単細胞の植物の仲間であるミカヅキモで見てみよう。三日月型をしたこの藻が分裂すると、それぞれの半分が失った半分を作り直すように細胞が縦(長軸)方向に伸び、元のように両側がとがった2つのミカヅキモになる。このとき細胞壁のセルロースの繊維は、伸びる方向と直角に、規則正しく並んでいることがわかる。セルロースがこのように並ぶと、細胞は横へ膨らむことができず縦方向にだけ伸びるので、元の形に戻れる。

細胞壁の内側に細胞膜があって、その内側一面に微小管がある。この微小管を壊す薬(コルヒチン)でミカヅキモを処理すると、細胞の分裂部分は一様に膨らんで、だんご状になってしまう(下段)。この部分のセルロースの並び方を見ると、方向性がなくなっている。じつは微小管がセルロースの向きを決めており、それが壊されたために配列がランダムになったのである。

タマネギが春にタマになるのは、冬の間存在する微小管が春先に消えてしまうからである。冬の間タマネギは、成長点の細胞分裂と草丈方向への細胞伸長で、50cmほどの細長い形になる。春になると微小管がなくなるために、根元8cmぐらいの部分の細胞集団が伸長の方向性を失い、地面に平行な方向へも膨らみ始めるのだ。

植物の微小管の並び方は、オーキシンやジベレリンなどの植物ホルモンによってコントロールされていることがわかっている。しかし、タマネギの微小管がなぜ春になると消えてしまうのかは、まだわかっていない。

微小管がミカヅキモの形を決める

A:ふつうに分裂して2つになったミカヅキモ。
B:セルロース微繊維が細胞軸方向(矢印)と直角に並んでいる。
C:微小管破壊剤(コルヒチン)で処理したミカヅキモ。分裂面が、だんご状に膨らむ。
D:セルロース微繊維がランダムになっている。

(しばおか・ひろお/大阪大学理学部生物学科教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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