Science Opera
生き物が語る「生き物」の物語
サイエンスオペラは、科学者のトークと音楽を一つの舞台でつなげた新しい表現形式です。この企画を進める過程で皆さんから「岡田館長がアリアを歌うのですか?」と聞かれることがありました。でも、彼ら科学者が歌を歌うわけではありません。科学者はあくまで語り手です。でも、そこに音楽や踊りが絡み合うと、単なる科学トークには見られない「理性」と「感性」とが融合したまったく別の世界が現れます。科学と音楽は切り離されたものではなく、同じ土壌で味わうことができるものではないか―。そんな気持ちが、このサイエンスオペラの企画を生みました。
ハイドンは、岡田館長が大好きな作曲家の一人です。サイエンスオペラの企画を岡田館長にしたとき、館長がまっさきに選んだのがハイドンでした。ハイドンは、岡田館長の研究テーマである「再生」が、生物学の主題として登場した18世紀に、交響曲というスタイルを完成した大作曲家です。岡田館長のトークと、ハイドンとがどのようなハーモニーを見せるか、注目していただきたいと思います。
『ピーターと狼』は、おじいさんの止めるのも聞かずに森に入ったピーターが、狼をつかまえてしまうお話で、ピーターや小鳥、狼などの登場者が、それぞれの楽器で表現されている、とても楽しい音楽です。私たちは、これを進化の物語に置きかえるまったく新しいシナリオを作りました(台本を欲しい方はご連絡ください)。
バクテリアと小鳥がフルート、恐竜がホルン、進化論のダーウィンがファゴット、といった具合に楽器が割り当てられます。ピーターに代わる導き役の「時間」が弦楽合奏。「地球ができてから、どのくらいたったことでしょう。時間が目を覚まし、広々とした海へ出ていきました」と、お話が進んでいきます。フィナーレは、さまざまな生物たちの大行進。
巻頭のページで、中村副館長が明かしていますが、プロコフィエフが『ピーターと狼』を作曲した年に彼女が生まれているんですね。何という偶然でしょう。中村副館長と京都市交響楽団のかけあいの妙をどうぞお楽しみください。
とにかくまったく新しい試みなので、本当のところどうなるやら、私たちにもよくわかりません。率直な感想を聞かせていただけませんか。その声を次の私たちの試みに生かしていきたいと思います。
(写真=外賀嘉起)
(構成・演出=もぎ・かずゆき/生命誌研究館サイエンス・ディレクター)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。