Science Opera
生き物が語る「生き物」の物語
生命誌研究館の機関誌『生命誌』を、ぼくは自宅のトイレに置いて拾い読みするのを常としている。この雑誌は、写真と文とがじつに有機的につながっている。DNAの話があっても、昆虫の話があっても、すべてが地球上の何か、たとえば社会現象などの日常性につながっているところがとてもよい。
音楽をやるということも、そういうことなのではないか。音楽というと「心をうつ」といった情緒的なものに訴えるものだと思いがちだが、本当にそうなのだろうか。三度の御飯を食べるように、ぼくらの日常にごく自然とつながっているのが音楽なのではないだろうか。
「生命誌」がぼくらに感じさせてくれるように、いろんな違いがあっても一緒に楽しめるようなつどい、もっと極端にいえば、音楽なんて聞きたくないと思っている人たちを相手にしてともに楽しめるような、そんな場にできたらさぞかし楽しいだろう。サイエンス・オペラは、そうした異なるものを結びつける一つの実験だと思う。
京都市交響楽団練習場での一コマ
(写真=外賀嘉起)
井上道義(いのうえ・みちよし)
京都市交響楽団音楽監督・常任指揮者。1946年生まれ。桐朋学園大学で斎藤秀雄氏に師事。71年イタリア「ミラノ・スカラ座」主催のグィド・カンテルリ指揮者コンクールに優勝し、世界的な活躍を始める