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ビデオ『生命誌研究館の冒険』撮影記
飛行機が旋回し徐々に高度を下げると、黒々とした樹木が覆った岩山が、霧の中から迫ってくる――ハワイ州、カウアイ島。雨季の12月。私たちは映画『ジュラシック・パーク』が撮影された島に入った。
映画のように、恐竜を蘇らせることは本当に可能だろうか。スピルバーグ監督のこの映画を、私たちはエンターテイメントが科学に突きつけた一つの挑戦状であると考えた。なぜなら、恐竜復活の可能性について科学的な詰めが行なわれないまま、恐竜の蘇りが既成事実のように独り歩きを始めてしまったからだ。
科学者たちは本当のところ、この夢のような物語にどの程度の現実性を見ているのだろうか。
そう考えて、私たちは一線の生物学者たちへのインタビューを通じて、恐竜復活というロマンに潜む科学の可能性と限界を明らかにするビデオ映画の制作を企画したのだった。
タイトルは『生命誌研究館の冒険――恐竜は本当に蘇るのでしょうか』。登場するのは、生命誌研究館の岡田館長ら5人。3000万年前の琥珀の中のハエから、遺伝子を取り出して話題となった弘前大学の城田安幸助教授がたまたまハワイに研究留学中で、カウアイ島をロケ地の一つに選ぶことにした。
ホノルルから飛行機でわずか30分。まだあまり観光地化されていないカウアイ島は、切り立った山並み、人気(ひとけ)のない砂浜など、自然がそのまま残された周囲150kmほどの小さな島である。リフェ空港から30分ほど山筋に入ったところに、『ジュラシック・パーク』が撮影されたロケ地がある。うっそうとした木の陰のゲートを抜けると、奥の池を取り囲んで、背が高く幹の白いロイヤル・パームツリー(ヤシの一種)が生い茂る。どこかで見た光景だ。映画の中で、恐竜見学ツアーの出発地・ビジターセンターのあった場所だった。
静かでとても雰囲気のいいところなので、偶然だがここを私たちのロケ地の一つとすることにした。管理人のウィリアム・バッド氏によると、この一帯の7つの場所が『ジュラシック・パーク』の撮影に使われた。近くには、病気のトリケラトプスを科学者が診断していた場所もあった。スタッフ200人が3ヵ月がかりで1万㎡のセットを組み立て、わずか1週間で「嵐のように」撮影して帰ったという。
私たちがインタビューした5人の科学者たちは、それぞれの想い、それぞれの立場で、恐竜や進化、生き物の形づくりについて語ってくれた。4月から生命誌研究館で上映するビデオをどうぞお楽しみに。
(本誌:三好礼子/みよし・あやこ)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。