Special Story
寄生植物の進化の系譜
花は花蜜を分泌し、訪花昆虫はそれをなめるかわりに送粉(授粉)を果 たす。このような花と送粉者との関係は「相利共生的な関係」としてよく知られている。そこでは、送粉という労働を果たした送粉者に花から与えられる報酬が花蜜である。しかし、花と送粉者の利害はつねに一致するとはかぎらず、両者の間に著しい不平等の関係が生じることもある。その顕著な例は、花が報酬を出さずに一方的に送粉者を利用するという関係である。
新緑の季節に温帯林の林床でマムシグサが花を咲かせる。マムシグサは雌雄異株の植物で水差しのような(仏炎苞:苞は花を抱く小形の葉)の中にたくさんの小さな花をつける。雄株の仏炎苞の下部には小さなすきまがあるが、雌株にはそのすきまがない。マムシグサの花は菌類に似た匂いを発散させ、キノコバエなどの昆虫がその匂いを発散させ、キノコバエなどの昆虫がその匂いに誘引されてやってくる。雄の仏炎苞の中で花粉まみれになったキノコバエはやがてすきまから外に脱出し、一部の個体は雌の花に誘引される。出口のない雌の仏炎苞の中で、キノコバエは送粉を果たし、しかし産卵は果たせずに死んでしまう。キノコバエは本来、産卵対象としてのキノコに誘引されるのだけれど、マムシグサはその匂いをまねて、キノコバエを送粉に利用しているのである。
(上)窓から見えるのは盤状体上の突起。その役割は不明
(中央)突起にとまっているキンバエ
(下)盤状体
ラフレシアもマムシグサと同様に報酬なしで訪花昆虫を操作して送粉に利用しているらしい。ラフレシアの花は腐肉に似た色と匂いをもち、キンバエたちがそれに誘引されてくる。これらのハエたちは腐肉だと勘違いしてラフレシアの花に産卵しに来て送粉を果たすのであるが、そこでハエたちが得るものは何もない。ラフレシアの花は密度が低く、しかも雌雄異株である。このような危なっかしい送粉システムが果 たしてほんとうに機能しているのかどうか、相利共生的な送粉者がほんとうにいないのか、かつてはいなかったのかどうか、等々、まだラフレシアの繁殖は多くの謎を秘めている。
(かとう・まこと/京都大学総合人間科学部助手)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。