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Art

交叉する点と線
―バスケタリーの世界

本間一恵

人間の生活のなかで、古くから使われてきた「かご」。既存の枠にとらわれない自由な素材と編み方を取り入れたとき、アートとしての「バスケタリー」が生まれる。


10年ほど前から「かごを作る人」になった。はじめの頃は、なにかモノが入る形態をしていたが、しだいにそうした用途が抜け落ちてゆき、あまりかごらしくはなくなってきた。しかし、今でもかごを作っていると思っているから、ということはつまり、私の中でかごの概念そのものが変わってきたということになる。

日本は竹に恵まれているので、竹かんむりの籠の字が似つかわしい。しかし、ワラで作った入れ物もかごである。してみると、素材からの限定ではなく、編んでいるということがかごのアイデンティティだろうか。たとえば、編まれた立体、と言い換えれば、かごの範囲は一挙に拡大する。草履、笠、蓑(みの)、箒(ほうき)……。家、橋、船などのなかにも見つかる。そして大きな物をすっぽり覆ってしまえる網も。

モンステラの葉っぱ5枚をラフィアヤシの葉で綴り合わせたもの

硬い金属の棒を編むことはできない。しかし、竹を割ったへぎ材は、硬いがわずかにたわむことができる。別の材と出会ったとき、お互いが少しずつ自分を曲げて相手を避けることができれば、その繰り返しによってぱらぱらだったものがしだいに関係を結び、一つのものに集合されていくのである。素材の性質は、ちょっとたわむ程度から、糸や繊維のように自分では立っていられないやわらかいものまで、連続的にある。そして、それぞれの段階で、それぞれにふさわしい技法、可能な技法、無理な技法があるわけだ。ついでながら、ガンとして動かない鉄の棒だって、他の素材、たとえば縄と一緒なら、一つのものに作り上げられる。ようするに、素材そのものの性質を利用して、材と材が出会った点で、どううまく関わりをもたせていくかが、編むということだ。結んだり、絡めたり、巻いたり、もじったり、組んだり、縫ったり……。交点は固定されないから、できあがったものには弾力性や伸縮性がある。

荷造り用紙紐の結び目を増殖させて、うつわのかたちに

この交点を均一に増殖させていくと平面がひろがる。それが連続しながら立体になっていくには何かが起きているはずだ。よく見ると、交点間の距離が変わっていたり、途中から材料が増えて一列だったものが二列になっていたり、進む方向が変わったりしている。かごがおもしろいのは、そうした変化がはっきり見てとれるところである。また、交点を作っていくことは、同時に穴を作っていくことでもあるから、穴のかたちや大きさ、並ぶ数や方向が、かたちを作っている鍵だともいえる。かごは、材料である実在の線となにもない隙間、穴でできているのだ。その両方を見ていくとかごが見えてくる。


 

使用済みネガフィルムを一穴ごとに切り離してからつなぎ合わせる

こんなに理屈っぽく言わなくても、人間はその存在のごくはじめの頃から、かごを作ってきた。縄文の遺跡から発掘される断片も、今われわれが目にするものと、なんのへだたりもない。そして現在でも、地球上人間の生活のあるところ、かごは健在だ。いや、虫や烏にも似たようなことをしているのがいる。こうして時間的にも、空間的にも、すべてがかごという網で覆われているかに見える。そして近頃は、炭素原子のある種の結晶構造が六つ目編みと同じだという発見があったりして、覆う領域は新しい方向をも見つけたようだ。その網の結び目が、少しずつ見えてくるのが、今の私にはおもしろい。そして、今―私が―ここで―作るということには、いったいどんな意味があるのだろう、と思いながら、自分のかごを見つけようとしている。

本間一恵(ほんま・かずえ)

1953年東京生まれ。日本女子大学家政学部住居学科卒業。織りや染めを経たうえで、もっとも原始的で単純で道具もいらないかご作り、バスケタリーに出会う。現在東京テキスタイル研究所、川島テキスタイルスクールでバスケタリークラスを受けもつ

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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