いつもこまやかな心配りで。

A子が小学校1、2年の頃であった。畳の上に鏡を何枚も並べて立て、首を右に曲げたり左に曲げたり、寝そべってみたりして、独りで一所懸命鏡の奥をのぞき込んでいる。何をしているのかと思っていると、「ねえ、光も走るんでしょ。それならいまのまえ、あそこに何がみえるの?」と何やらわけのわからないことをきく。幾度きき直してもA子は同じことを繰り返すだけであった。が、そのとき私はハッとした。ひょっとするとこの子は今、物理の大変高尚なことを考えているのではなかろうかと思ったのである。自分ではうまく表現が出来ないのであろうけれど、少なくとも光の伝播速度に伴う時間の遅れの問題を、小さな体で考え、試そうとしているように思われた。今我々の見ている遠い宇宙の彼方からくる星の光が、何十億年も昔の姿を伝えていたりすることの原理そのものに挑もうとしているのではなかろうかと思い、その発想に驚いたのである。だが、そのA子も学校では目立たない子であった。ゆっくり考えるA子の算数や理科のテストの結果は、書いた部分の答えは正しいが、時間不足で解答しない部分がいつも残されていたからである。

多くの子どもは自分の目で自然を見つめ、不思議だなあと思っていることがたくさんある。これまでの学校教育では、それをじっくり考えさせ、自分の力で解答を見つけていく力を十分育てていなかった。それは受験戦争という重くのしかかる問題があってのことではあろうが、しかし、何とかして子どもたちの創造力豊かな思考を伸ばしてゆける場を作ってみたい。これが私の長年の夢であった。

この春定年を迎え、ささやかな退職金を投じてその夢を実現させようと、私は今こんな計画を立てている。名付けて「発見工房クリエイト」という。科学教育に携わる方々のボランティアを主体として、遊びや実験を通して科学的思考に必要な創造性を育成する“こども科学館”や“手作り実験教室”を開設し、数々の創造性開発プログラムの企画を生み出してゆく場とする計画である。

(はしもと・しずよ/東海大学名誉教授 原子分光物理学専攻)