ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう 細胞・発生・進化・研究室 小田広樹

私たちが開拓した新しいモデル生物オオヒメグモの発生や細胞を調べ、昆虫や脊椎動物と比べることによって、動物の多様性の原点を探ります。

研究内容

ハエとクモは私たちの生活に身近な節足動物です。これらの動物はどのような経緯で地球上に誕生することになったのでしょうか?時を遡ればハエとクモの共通祖先がいたはずです。さらに遡ればヒトとの共通祖先もいたでしょう。私たちの研究室は、現存の動物種の共通祖先を科学的に理解しようとする努力を通じて、動物の多様性が形づくられてきた仕組みを解明したいと考えています。

ハエとクモの共通祖先が存在していたのはきっと今から5~6億年以上前のことでしょう。想像を絶するほど長い時の流れがそこにはあります。それでも、変異を重ねながら受け継がれてきたゲノムの遺伝情報に手がかりがあるはずです。ゲノムにコードされている発生システムや細胞の構造や機能を調べ、動物種間で比較することによって、過去の状態をある程度推定することができると考えています。しかし、比較する対象があまりに違い過ぎると何と何を比較してよいのか客観的な判断ができません。例えば、ハエの“あし”とヒトの“あし”を比較してもよいのでしょうか。ハエとクモなら同じ節足動物、からだの全体的な形も似ていて、それでいて、5億年以上も前に系統が分岐しています。この比較がカンブリア紀の動物を理解するためのひとつの窓口を提供してくれるはずです。

教科書でよく知られているようにハエ(キイロショウジョウバエ)はモデル生物としてこれまで精力的に研究されてきました。それに対して、クモは研究に使われることはほとんどありませんでした。それでも私たちは、10年前にオオヒメグモの有用性に目をつけ、このクモ種を新しいモデル生物として開拓してきました。オオヒメグモは、遺伝子機能に基づいて比較学を展開できる貴重な動物です。これまでの私たちの研究では、クモの発生システムにはハエよりも脊椎動物に似ている部分があることが分かってきています。私たちは、ハエとクモの比較を足掛かりにして、多細胞動物の形態的多様性を生み出した普遍的な原理を探究したいと考えています。

メンバー

小田広樹

主任研究員小田広樹

岩崎佐和

奨励研究員岩崎佐和

秋山-小田康子

特別研究員秋山-小田康子

野田彰子

研究補助員野田彰子

西口茂孝

大学院生西口茂孝

最新論文

論文一覧

昆虫型E-カドヘリンの進化起源をゲノム解析で探った論文が、2017年6月17日にオンライン学術雑誌「BMC Evolutionary Biology」に掲載されました (https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-017-0991-2)。昆虫のE-カドヘリンは、脊椎動物のEカドヘリンとは細胞外構造に大きな違いがある分子ですが(Nishiguchi et al., 2016)、共通の祖先分子に由来する、形態形成に重要な細胞間接着分子です。本論文では、非昆虫節足動物のうち、鋏角類5種、多足類1種、甲殻類6種のゲノムを解析し、それぞれのゲノムに存在するクラシカルカドヘリン遺伝子の種類と構造を同定するとともに、それらを詳細に比較し、分析しました。E-カドヘリンはクラシカルカドヘリンの一種ですが、昆虫型E-カドヘリンは初期節足動物が多様化した後に、祖先型のクラシカルカドヘリンから段階的なスリム化を経て進化してきたことが示唆されました。今回の発見で特に興味深いのは、解析した甲殻類のうち、鰓脚(ミジンコ)類とケンミジンコ類で昆虫型のE-カドヘリンが確認されたにも関わらず、軟甲類においては祖先型カドヘリンと昆虫型E-カドヘリンの中間的特徴を示すカドヘリンのみが見つかったことです。この発見は汎甲殻類(昆虫類+甲殻類)の中で、ミジンコやアルテミアなどの鰓脚類がフナムシやヨコエビなどの軟甲類よりも昆虫類に系統的に近いグループである可能性を示唆します。これまでに脊索動物門においても、脊椎/尾索動物と頭索動物の間でクラシカルカドヘリンの細胞外領域の構造にはっきりとした違いがあることが分かっています (Oda et al., 2002)。今回の節足動物門での発見によって、クラシカルカドヘリンの構造進化と動物の系統発生との関係を追究することの重要性がさらに高まったと言えます。

Mizuki Sasaki, Yasuko Akiyama-Oda, and Hiroki Oda(2017)
Evolutionary origin of type IV classical cadherins in arthropods
BMC Evolutionary Biology, Volume 17, Issue 142, June
DOI: 10.1186/s12862-017-0991-2
https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-017-0991-2

論文はこちらでご覧いただけます。

関連データベース:http://www.brh2.jp/

Shigetaka Nishiguchi, Akira Yagi, Nobuaki Sakai, Hiroki Oda(2016)
Divergence of structural strategies for homophilic E-cadherin binding among bilaterians
http://jcs.biologists.org/content/129/17/3309

ハエとクモ、ヒトの祖先を知ろうラボの細胞間接着分子(E-カドヘリン)論文が科学雑誌「Journal of Cell Science」に掲載されました!
詳しくはこちらをご覧ください。

受賞報告

秋山―小田康子特別研究員が日本動物学会の
「平成24年度成茂動物科学振興賞」を受賞しました。
受賞理由はこちらでご覧いただけます(動物学会HP

年度別活動報告

年度別活動報告書はこちらからご覧頂けます。

これまでの学位取得者とそのテーマ

平成25年度 修士論文 逸見なつき
「クモ胚における縞パターン形成の定量的な解析」
平成24年度 修士論文 西口茂孝
「昆虫型カドヘリンにおける接着特異性決定メカニズムの解析」
平成22年度 博士論文 金山真紀
「顕微注入法を用いたクモ胚の頭部体節形成機構の解析」
平成21年度 博士論文 春田知洋
「DE-cadherin細胞外領域の構造と機能が果たす形態形成過程における役割」
平成19年度 修士論文 金山真紀
「オオヒメグモの胚盤周縁部領域に着目した節足動物門における前方部形成機構の解析」
平成18年度 修士論文 春田知洋
「DE-cadherin細胞外領域のドメイン構成の機能的意義の解析」

このラボから生まれたジャーナル記事

季刊「生命誌」83号
フロム BRH:生きもの愛づる人びとの物語り3

研究と表現の両輪による活動を続けて20年、明確なまとまりが見えてきました。これをどのように生かし、どう展開するか。次の10年に向けて考えています。

オオヒメグモの初期胚で、ある遺伝子をはたらかなくしたところ背腹軸の向きを決めるクムルスが動かず尾の領域が形成されませんでした。頭尾軸、背腹軸を決めるしくみとクムルスの動きとの関わりを探ります。

季刊「生命誌」61号
クロス:「体節形成の多様さを探る二つの視点」

節足動物の多様性の基本は「体節」というくり返し構造です。遺伝子ネットワークの違いから生み出される体節形成の多様化の道筋を、数理生物学と実験生物学の共同で探ります。

季刊「生命誌」57号
from BRH:「生物の多様化を卵から見る」

クモは、ハエと同じ節足動物でありながら、卵は球体で始めは1つの放射相称軸しか見えず、脊索動物と似た体づくりをします。節足動物と脊索動物という2つの進化の道筋を、クモがつなげてくれることを期待しています。

季刊「生命誌」50号
リサーチ:「脊椎動物の脊索はクモのどこ?」

丸い卵に頭と足が生えたようなオオヒメグモの赤ちゃん。8本の足がきちんと体の両側にできるためには、丸い卵の左右を分ける中心軸が必要です。

季刊「生命誌」47号
リサーチ:「形づくりを支える分子の形の変化」

約10億年前に単細胞生物から多細胞生物が現れた時に生まれた細胞と細胞がくっつくしくみが細胞接着です。さまざまな動物がもつ接着分子の形の変化から進化を考えます。

動物の多様性が形づくられてきた仕組みを理解するために私たちが選んだのがモデル生物であるハエ、そしてクモです。節足動物の共通祖先から何が保持され何が変わったのか?その糸口が見えてきました。

季刊「生命誌」39号
「飼育・採集日記」

私たちは、節足動物内での進化を調べる一つの材料にムカデを選びました。自然の生物を扱う研究は材料の入手から大変…。高槻周辺でのムカデの採集日記です。

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