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生命誌について

2021.09.01

ゲノムの散歩

参照記事「研究館より」

ミッキー

研究館にいるオーストリア肺魚(アボガド君)とアフリカ肺魚(マカロニ君)のゲノムの塩基配列が最近決定され、これを機に研究を考えておられると伺い、私もゲノムに興味が沸いてきました。それで色々調べて、新たに知ったり不思議に思ったことを纏めてみました。ご一読いただければ幸いです。

ヒトゲノム約30億塩基の内、タンパク質をコードする領域は僅か約2%で、残りの領域の多く(70%)はタンパク質は作らないがRNAを作る領域(ノンコーディングncRNA領域)であることを知りました。
「ゲノム解析」の手順を調べると、1ゲノムの非コード領域部分(ncRNA)を同定する。2ゲノム上の遺伝子部分を同定する。3これらの要素に生物学的機能を付加するとありました。ゲノム解析は本当に大変だと思いました。そこで浮かんだ疑問は、ATCGが延々と並ぶゲノム配列から遺伝子領域とncRNA領域をどう区別するのでしょうか。遺伝子の開始/終了コドンの仕組みはこの識別に関与するのでしょうか。
ncRNAは細胞内で単独で活動するだけでなく、タンパク質と複合体を作ることに驚きました。例えば、リボソームは約50種のタンパク質と3種のリボソームrRNAから構成され、メッセンジャーRNAが運ぶアミノ酸配列情報と転移tRNAが運ぶアミノ酸からタンパク質を作る精密機械ですが、こんなに大きくて複雑な複合体が、細胞の中のいったいどこで、どのように作られているのでしょうか。シャペロンのように組み立てを介助する仕組みがあるのでしょうか。
他にも、生体の発生時に体の形作りに働くHOX遺伝子は、ゲノム上でどのように存在しているのでしょうか。興味は尽きません。

不思議に思ったこと、これからゆっくり楽しみながら掘り下げたいと思います。なにかありましたらご指摘いただければ嬉しいです。お読みいただきありがとう御座いました。

2021.09.01

1. 表現セクター 平川美夏

お便りありがとうございます。

ヒトのゲノムは、3ギガ塩基対、一般的なDVDの容量が約9ギガですから1枚あれば十分ですが、肺魚は約40ギガ塩基対ですので、5枚なければ収まりません。そのほとんどはタンパク質を作らない繰り返し配列ですので、文字列としては見ようによっては退屈なものかもしれませんが、肺魚のどのような歴史を刻み、なぜこの大きさでいるのか、何か答えが見えてくるはずと期待しています。

さて、教科書などでおなじみのRNAは3種類、ミッキーさんもご存知の、DNAを鋳型にタンパク質をコードする部分をコピーしたmRNA、mRNAのタンパク質コード部分の3塩基のコドンに対応するアミノ酸を運んでくるtRNA、両者が協力して働き、アミノ酸のつながりであるタンパク質を作る場であるrRNAです。DNAを鋳型にこれらのRNAをつくる酵素はそれぞれ決まっていて、mRNAはRNAポリメラーゼ2、tRNAとrRNAの一部はRNAポリメラーゼ3、rRNAの大きな部分はRNAポリメラーゼ1が働きますので、細胞には区別できるのです。ところが残念ながら人間には、配列だけを調べて見分ける方法が完全にわかってはいないので、研究するときには、細胞からRNAを集め、その配列を決めて、ゲノムの配列と比較して、一致する場所を決めるのが確実です*。mRNAには、転写の最後ににポリAというAAAA...が並んだシッポがついているので、タンパク質を作る遺伝子はそれで見分けます。mRNA以外にも、AAAA...が並んでいる箇所はありますので、開始コドンから終止コドンの間をタンパク質に翻訳して確認することも重要です。

rRNAの遺伝子は、実はヒトのゲノムには300個以上あり、主なパーツは5つの染色体の短い短腕(くびれから上の短い部分)に繰り返し並んでいて、細胞の核の中の核小体で転写されます。核小体は光学顕微鏡で見えるほどの大きさで、タンパク質を作り続けるために専用の場所があるのです。最終的には核から運び出され、リボソームの組み立ては細胞質で完了しますが、真核生物ではパーツにして約80個、200種類もの分子が関わっており、パーツの輸送や組み合わせを制御したり不出来なものをより分けたり、形づくりを助けるシャペロンも含まれます。

ゲノムの7〜80%は転写されていることがわかってからは、RNAは3種類どころか、長さも作られ方も機能もさまざまなものがあるとわかり、ゲノム解読後の生物学の大きな転換になりました。ゲノム研究は、どうしても配列に目がいきがちですが、RNAの場合は、負の電荷をもち、細胞内のタンパク質を磁石のように集めたり、並びを変えたりすることで、細胞の働きを調節する機能が注目されています。タンパク質とタンパク質の反応は、鍵と鍵穴のような厳密な関係が考えられていましたが、RNAが登場することで、生きものらしいウェットでダイナミックな細胞の働きが見えてきました。季刊誌103号の「ゲノムの形と生きものの形」で少し触れましたが、HOX遺伝子も同様のしくみが関わることがわかっています。

また不思議に気づいたら、ぜひ投稿してください。まだわからないことをいろいろと考えるのも楽しみです。

*RNA-seqという技術やトランスクリプトームという方法で、ゲノムとセットで調べられることが多いです。

2021.09.03

2. ミッキー

私の不思議に的確にお答えいただきありがとうございます。分かりやすく纏まった、素晴らしいお返事だと思いました。いくつかヒントもいただきました。しっかり理解できるよう、いま、繰り返し読んでいます。これからもよろしくお願い申し上げます。ご研究応援しています。

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