生命誌について
2020.07.30
アゲハ蝶の卵産み付けに伴うドラミング行動について
K.S.
近所では、ナミアゲハ、クロアゲハ、ジャコウアゲハが生息しています。
この内、ジャコウはウマノスズクサを趣味で栽培されておられる近所のご家庭で、繁殖しています。
それで、ジャコウアゲハは、卵の産み付けでウマノスズクサを見分けるのに有毒成分のアリストロキア酸をドラミング行動で検知しているのではと、自分なりに思いました。
現在、ウマノスズクサは数が減っておりますので、これを見つけられないジャコウアゲハもいて、やむを得ず、オシロイバナに産み付けているという、ブログ記事を数多く読みました。
このオシロイバナも、実はトリゴネンという有毒成分を含んでいるので、錯覚して産み付けるのではないでしょうか。
どちらも化学成分の構造を見ると、ベンゼン環で作られているので、そのように思いました。
自分は、単なるウマノスズクサを趣味で栽培し始めたばかりの素人ですが、非常に興味を持ちました。
もし、研究していただけるのであれば、アゲハ蝶のドラミング行動の研究が深まるのではないかと思いました。
2020.07.30
1. 尾崎克久(昆虫食性進化研究室)
生き物を観察しながら、行動の背後にある仕組みについて考えを馳せられるのは素晴らしいことだと思います。身近な科学のお手本ではないでしょうか。
ジャコウアゲハは、ウマノスズクサに含まれるアリストロキア酸とセコイトールを産卵刺激物質として認識していることが知られています。(https://www.brh.co.jp/publication/journal/005/ss_2.html)
産卵刺激物質は単独の化合物では効果が弱く、複数の植物化合物の混合状態で作用します。また、産卵刺激物質として報告されていない化合物でも、組み合わせによっては産卵活性を示すものが存在する可能性があります。オシロイバナに産卵する理由は、未報告の化合物の組み合わせかもしれません。
産卵刺激物質を認識する味覚受容体は化合物に対する特異性が高く、構造が似た化合物でも応答はしませんので、ベンゼン管を持つという程度の共通性で誤認識が起きる可能性は極めて低いと思います。ちなみに、化学感覚受容体でも、嗅覚受容体は構造が似た複数の化合物に反応します。
ジャコウアゲハは進化的に古い、祖先的な種であると考えられていますので、進化の初期段階を考える上で重要な研究材料です。ナミアゲハなどと比較するために、近い将来に研究材料として用いる可能性があります。