展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【知れば知るほど】
2018年11月1日
学生の頃からずっと続く悩みがあります。それは「どこまで調べたらいいの?」というものです。調べ物はインターネット、というのが常識の現在、数ある研究論文や学術書にアクセスすることは、昔と比べ物にならないほど容易になりました。一方で、調べれば調べるほど細分化された新しい情報が出てきます。どれくらい調べたらその分野について、それなりに「わかった」といえるんだろう? どこで止めればいいんだろう?論文を一本書くにしろ、記事を一本編集するにしろ、いつも悩んでしまいます。今回も99号の発行に向け、発生学について調べ始め、無限に見える論文や写真に溺れそうになりました。
不思議なことに、特定の分野でずっと研究してきた科学者を取材してお話を聞くと、どんな分野の研究も何となく「わかった」気になります。きっと皆さんたくさん調べ物はするのでしょうが、調べ尽くすまで次に進まないというわけではなく、「ここまで」という線引きも上手なのだと思います。不完全・不確定な部分も含めて全体像を捉えるのが上手、ということなのでしょうか。その捉え方に一人ひとりの人柄が感じられるので、研究はとても人間的な営みだと思うのです。客観性と再現性が科学の大事な本質であることは間違いありませんが、それだけに囚われてしまっては、科学は成り立たないことを教えてくれます。
科学を表現するという仕事にしても、たくさんある研究成果の中のどれを重視し、そこから何を感じ、どのように全体を捉えて示すかを問われているような気がしてなりません。私はちまちまと勉強してしまいがちな性格なので、「ここまで」の線引きを上手にやれるようになりたい・・・少しでも要領のいい人間になりたいと思っている今日この頃です。