展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【しなやかに生きていますか】
2017年12月1日
先月、友人の結婚式で久しぶりに大学の同級生と集まる機会がありました。私は大学院にも行ったので学生時代が長かったのですが、同じ会社や組織で長く働いている友人は部下がいたり昇進していたりと、順調なステップアップを遂げているようです。一方で、「もうこの組織では自分の先が見えてしまった」、「今は仕事が楽しいと胸を張って言えない」など、長く働いているがゆえの悩みも出てきたようです。そんな中、友人の一人(会社員・2児の父)が「40歳までに故郷で牧場を始める」と宣言したので皆びっくり。「手伝うからぜひ実現させてよ」、「いっそ、みんな牧場ではたらこうか」と盛り上がりました。彼の夢が実現する日が楽しみです。
人生で悩んだり諦めたり、ときに思い切った行動に出たりといったことは誰しも思い当たることです。友人たちの話を聞きながら、「じゃあ私はどうしたいんだろう?」と問いかけましたが、すぐに答えが出るはずもありません。ふと、生命誌95号で取材した稲葉カヨ先生を思い出しました。稲葉先生は、「樹状細胞」という免疫細胞のはたらきを解明し、免疫学の一大分野に育て上げた研究者です。女性研究者がほとんどいない時代に研究の世界に入られ、さぞかしたくさんの苦労話が聞けるのではないかと思いきや、「物事を深く考えるたちではないのですよ、私」と、全く苦労を感じさせない爽やかな笑顔です。実際は望んだ道が叶わないことは何度もあったそうですが、「ま、仕方ないか」とすぐに気持ちを切り替えられるポジティブさに、私も川名スタッフもすっかり感服し、悩んだらこの姿勢をぜひ見習おう! と思ったのです。年齢も職業も異なる方の人生に励まされるなんて不思議ですが、迷ったり考えたりしながら生きる点はみんな同じ。免疫学のご研究の話はかなり手強くてすぐには全て理解できなかったものの、「しなやかに、たおやかに、折れないように」生きるヒントをたくさんもらいました。サイエンティスト・ライブラリーで、研究者の研究だけでなく人生までを表現することの大切さを再確認したのでした。