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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【「生命誌の樹」を育てる】

2017年11月1日

平川 美夏

かつて生命誌研究館の展示ホールの中央奥に立体系統樹がありました。メインストリートの展示「生命誌のお散歩」とのコンビで進化を語りかけてくれていましたが、老朽化し自重を支えきれなくなり(系統樹は1つの共通祖先が根っこで根を張っていないので)、惜しまれつつ引退しました。それがずっと心のこりで、サマースクールでスクール生の皆さんと「立体系統樹をつくろう」の課題に取り組んだ年もありました。そこで今年ついに、紙工作で実現することになりました。

生きものの間の関わりと進化を表す系統樹をDNAの比較から描く研究は、研究館の顧問をしてくださっていた宮田隆先生が1980年代に切りひらかれた分野です。昨今、次世代シークエンサーの普及でさまざまな生きもののDNA配列が容易に得られ、コンピュータの性能が高くなり、生きものの種類も比較する遺伝子数も莫大に増えて、ますます盛んになっています。生きもののサンプルさえあれば、誰でも自分の興味のある生きものの系統樹から進化を探れる、そんな時代になってきているのです。

「生命誌の樹」として生きもの進化を語る年4本の樹をつくることになりました。せっかくなので最新のDNA研究の知見を取り入れて、生きものの世界全体が見渡せる樹を作りたい、4回分のテーマはすぐに決まりました。テーマごとに関連する生きものの論文を解読しますが、種の分類から綱や門レベルまで様々な系統樹があり、探索する遺伝子の種類や比較方法の違いで異なる結果を争って発表しているのが最前線です。学名で示された生きものたちの何百本もの枝から矛盾なく分岐できる枝を選ぶのは想像以上に難産でした。系統樹は今いる生きもののから作りますが、せっかく進化の歴史を示しているのだから絶滅した生きものも入れたいと欲がでます。現存しない生きものの根っこはどこか、時代に無理はないかと枝を付け足しました。

いよいよ次は立体化です。ペーパーエンジニアの坂さんがプロトタイプを設計し、型を抜く印刷屋さんとの相談で、カードの1面は頑張っても枝20本以下、分岐は3ミリ以上の幅が必要となりました。この制限の中、さらに見せたい生きものを残して枝を刈り、分岐に矛盾がでてしまうものを外し、それぞれの面に意味があるよう試行錯誤を繰り返して樹をブラッシュアップしていきました。坂さんの手にかかれば、30数本の枝もこの通り、第一回の植物の系統樹が無事立ち上がったときは、これで4回いけるぞと嬉しくなりました。

植物、無脊椎動物、脊椎動物と作り、いよいよ最後です。手応えを感じたわりには、毎回この樹で行こうと決心するまであれこれと悩み、結局1つのノウハウでできるのはなく、データと向き合い迷いながら、最後はエイやで決めています。読者の皆様からの感想を励みに、誰も見たことのない世界をお届けしたいと作り上げました。どうぞお楽しみに。

この樹、枝が折れないかと慎重に慎重に切り抜いてくださっていると思いますが、この切り込みは職人さんが1枚1枚心を込めて抜いてくださっています。本当に感謝です。多くの人に支えられて生まれた「生命誌の樹」。4本を並べて生きものの広がりと道のりに向き合っていただけると嬉しいです。

[ 平川 美夏 ]

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