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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【映画と音楽のご縁から<いのちの響き>を】

2017年4月17日

村田 英克

昨年、森悠子先生が初めて研究館にお越しになった時、森先生のご著書『バイオリニスト 空に飛びたくて』にサインをいただきました。こう書いてくださいました「音の命はどこから生まれるのか? 2016年6月9日 森悠子」。

以前の日記にも書きましたが、森先生の長岡京室内アンサンブルとのご縁は、映画「水と風と生きものと」のエンディングに録音をご提供いただいたことから始まりました。その曲は、モーツァルトが13歳の頃に書いた「カッサシオン ト長調 K.63」からアダージョ。映画をご覧いただいた方は憶えていらっしゃいますでしょうか?

先述の森先生のご来館は、コンサート会場として展示ホールの音の響きをみに来て下さった時のことです。ここでは岡田節人館長の時代からしばしば演奏会を行ってきました。アコースティックな演奏に良質の響きを提供する器として演奏家の皆さんからわりあい高い評価をいただいています。森先生も、その日、ホールの響きに合格点を下さいました。せっかくご来館いただいたので「生命誌マンダラ」を観ながらそのお話しをしました。それぞれの生きものは固有のゲノムDNAを細胞の中に持っていること。そして私たち多細胞の生きものでは、今、体をつくっているほぼすべての細胞は、私の始まりの細胞である受精卵から、唯一無二のゲノムを丸ごとうつし持っていること。そして、同じゲノムを用いながらも多様な姿に自己実現する細胞たちが、はたらき合って、常に全体として秩序ある一つの個体を生きていること。私は、ゲノムを楽譜に見立てて科学のコンサートホールとしての表現について森先生にお伝えしたかったのです。頭の中では、同じ曲の譜面を持ちながら、それぞれのポジションにすっと立ち、耳で互いの呼吸を聴き合い、異なるパートを演奏しながら、全体として美しい一つの曲を生み出していくアンサンブルを思い描きながら、そのことに重ねてお話ししたわけです。その後で、森先生が書いて下さったのが冒頭の言葉です。先生はその時、「音楽は楽譜には入っていないんですよ」とやさしく笑いながら私に言いました。

長岡京室内アンサンブルのコンサートはご存知の方も多いと思いますが、いろんな方向を向いた譜面台だけがスマートに生えている空っぽの舞台に、演奏家が登場してスッとポジションにつきます。音もなく皆の呼吸が合ったところで、どこからか演奏が始まる瞬間が訪れます。さあ、それから、何もなかった空間に、ほんとうに豊かな音が満ち溢れて展開していきます。2017年6月3日に演奏会を行います。「節人先生と<いのちの響き>を 〜長岡京室内アンサンブル in 生命誌研究館〜」です。本年1月17日に逝去された岡田節人名誉顧問と森先生はご縁があったこともあり、中村館長とも相談のうえ、節人先生への思いを込めての演奏会として開催することとしました。是非、お申込み下さい。

[ 村田 英克 ]

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