展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【参加者として挑むサマースクール】
2015年8月17日
8月6日7日にサマースクールを開催しました。サマースクールは生命誌の研究・表現をじっくり体験してもらう催しです。「じっくり」よりは、「みっちり」の言葉が相応しい、頭をフル回転・フル活動させる2日間です。
今年は「食草園から生きものの物語をつむぐ」をテーマに、身近な自然・生きものを通して誰に何を伝えたいかを参加者のみなさんと一緒に考えました。参加者は高校生〜70歳の4名で、年齢差があり職業も研究者・先生・学生などさまざまでした。この催しの報告に関しては、9月中旬頃ホームページに掲載しますのでそちらをご覧いただくとして、この日記では催しで考えたことをご紹介します。
毎年、サマースクールは講師という立場ではなく、スクール生として参加することを心がけています。事前に食草園の紹介スライドを作っている時、これでどこまで私の熱意が伝わるんだろうと悩みました。そこで「食草園を通して誰に何を伝えたいか」という気持ちを込めた立体作品を作ることにしました。サマースクール中、食草園についてみなさんと語り合い、ブラッシュアップしたものをご紹介します。
食草園はチョウの訪れる庭、日常と研究をつなぐ庭です。私はチョウ「種分化」の面白さを飛び出す絵本で表現することにしました。種分化とは一つの種から新しい種が誕生することで、現在の豊かな生態系をつくり出したしくみです。あるチョウの種分化には、成虫が新しい食草に卵を産み、幼虫が食草の味見・消化・解毒ができ、さらに性選択など複雑な過程をクリアする必要があります。この複雑な物語を絵本にし、子どもも大人も楽しめるものにしたいと考え、試行錯誤しながら写真のようなものをつくりました。これは全体像です。主人公は卵からかえってすぐのイモムシ。先祖が食べていた食草をそのまま食べるという道(右)と、新しい食草を味見する道(左)を植物の枝に見立てて作り、それぞれ進んだ道にどのような出来事があるのかを差し込み式のポップ(オレンジ色の紙)で表現しました。新しい食草を味見する道には、「味見したけれど好きではなかったので食べない」や「おなかを壊して死んでしまう」などさまざまな出来事を載せました。本当に絵本にする際は、この物語を1ページずつ絵と短い文章にして語れたらなあと思います。この絵本を作る際、チョウが食草を見分けるしくみを探るラボの尾崎さんに食草転換の物語を詳しく解説してもらいました。同ラボの吉澤さんには出来事の各項目について表現が正しいかアドバイスをいただきました。この「研究者に聞くこと」はとても大事な行為で、物語の深みが増した!と実感しました。この経験を通して、自分の表現したい気持ちと研究者の気持ちが重なった、両者ともに納得できる作品を作りたいと改めて思いました。
今回のサマースクールでは、食草園やものづくりに対してじっくり考えることができ、スタッフの私も大変有意義な時間を過ごすことができました。試作版絵本づくりのプレゼンを温かい目で見守って下さったスクール生のみなさんありがとうございました。この絵本、完成品がいつできるか未定ですが、ぜひ作りたいです。お楽しみに。
手前がスタート地点です。分岐した道には、種分化のプロセスが楽しめる物語が書いてあります。赤いチョウが新しい種を意味します。奥のお花は生命誌のメッセージ。「絶えることなく続いてきた生きものたちの物語に耳を傾けてください」などを書きました。