展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【ことばの整理の専門家に囲まれて】
知識整理のアプローチというとよくプログラミングなどの技術かと思われがちですが、その方面のプロは既に世の中に数多くいます。私たちが研究として追求すべきところは、コンピュータで処理できてさらに人間にも分かりやすいように研究のデータ(学術用語や文章)を集めて整理するステップです。その対象は、種名だったりヒトのからだの解剖部位だったりまちまちです。私はタンパク質の多機能性に興味があるので分子機能や器官の生理的機能についての記述となりますが(前回の日記を参照)、膨大なデータを扱うとき特有の課題や悩みは似たものです。 ここで世の中を広く見渡せば、日常のなかでもわたしたちは当たり前のようにことばの整理の専門家の恩恵に預かっていることに気づきます。なかでも特に欠かせないものは、やはり国語辞典。誰がいつ作ったの?なんて普段は気に留めませんが、『博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話』という本のなかでは、1927年に70年(!)の歳月をかけて完成したオックスフォード英語大辞典(OED)の作成に関わった人たちのドラマを読むことができます。「ことば」がどのような文中で使われてきたのかその「意味」の変遷を知るためにバイアスなく用例を集めるという、いつ終わるともしれない課題に人間が挑んだという歴史的事実にも、明快なアプローチにも、圧倒されます。でも私が一番すごいなと感じたのは、彼らが、辞典とはそもそも何か?というその時代にとって切実で、でも漠然としがちな根本的な問題を徹底的に考えて言語化したところです。時代の流れに沿った人間の信念があってこそ、良いアプローチや理解者が最終的についてくるものなのではと思います。 私自身はBRHや生物学分野にいて、こういうことをしようと考えるようになったのですから、今の生物学研究の現状をみたときに遺伝子産物のはたらきを整理する必要性がどこにあるのか?そのコンセプトを、研究データの整理に基づいてきちんと打ち出すことを目標にしています。ものすごい人たちに囲まれて恐縮したり途方も無くなることもしばしばですが(本当です、先生!)、苦悩する日々は充実していて、さらにその日々が報われるような研究者との出会いというご褒美が、ほんの時たまあるのが何よりの励みになっています。この仕事に携わらせてもらえることへ感謝を忘れずに、気を引き締めるところは引き締めて、社会生活を送りたいものです。 | |
[ 坂東明日佳 ] |