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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【知るための表現−2年間のまとめ】

坂東明日佳
 先日、修士論文発表を終えました。タイトルは「日本の分子生物学の動向を捉える試み」。普段は実験研究に携わっている研究者の方々からの質疑も活発で、十分に研究内容を伝えることができたのではないかと大変清々しい気持ちでした。「生命科学をひとつの形に表現することで、人の心を揺さぶりたいです!」——なんとも漠然とした意気込みでSICPセクターの扉を叩いたのが2年前。そのような未熟な私を我慢強く見守り、ご指導くださった中村館長そして工藤さんには感謝の気持ちで一杯です。またSICPスタッフやBRHの外の多くの方々からヒントや励まし、おいしいおやつなどをいただいて、ここまでたどり着くことができました。本当にありがとうございました。
 世の中にはジャーナリストや展示解説員など科学を伝える仕事が数多くある中、ガラス細工や紙工作で生命科学の研究成果を表現するSICPの活動は、私にとっては「様々な素材」と「自分で作り方を考える」部分において抜群に魅力的でした。しかし作品を見る楽しさと作る楽しさでは大違い。さらに研究という立場でSICPに来たために、修士研究と生命誌、またSICPの日々の活動をどのように重ね合わせたらよいのかと不安で、また周囲を不安にさせてしまうことも多々ありました。たぶん、「何かを作りたい」と強く希望していなければ、諦めてしまっていたかもしれません。
 何のために、そこまでモノ作りがしたかったのだろう。入学当初に意気込んでいた「生命科学研究から分かることを伝えるため」ではなく、「生命科学研究から分かることって何?」これが原動力でした。一つ一つの生命現象について明らかにするために実験をするように、私は細分化された生命科学研究の全体像を把握するために、研究情報をまとめてきたのだと思います。そうしてまとめた成果を外に出すことで、初めて他の人とも研究者の視点から見た生きものの姿を共有できることを知りました。これをきっかけに、研究者の知識や経験を描いた図版を社会に届ける「伝えるため」のモノ作りも考えるようになりました。でも私が今描けるのは、DNA解析を中心とした分子生物学が多様な生命現象を細胞レベルで研究する学問へと変化したという非常に基本的な動向のみです。近頃はその図版を睨みながら「これでは何が物足りない?何が知りたいの?」と自分に問う毎日です。まだまだ未熟者ですが、SICPで得た教訓“手足を動かしながら考える”ことを忘れずに、続けて頑張ります。また、SICP部屋の扉を叩いたときのように、手足と頭をグルグルしっかり動かすことが、さらに新しい人々との出会いにつながることをいつも期待しています。


 [ 坂東明日佳 ]

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