展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【はめ殺しの窓から】
2001年11月1日
鉄筋のオフィスの、中庭に面した小さな窓です。 今日はよい天気。 お昼に、外に出掛けると、 庭の植栽が半分色付き、 先週、奈良の山で見た紅葉が、 もうドアのすぐそばまで来ていました。 涼しい風。温かな光。落ち葉の匂い。 はめ殺しの窓の情景から さっき触れた外の空気が蘇ります。 壁に開けられた小さな窓。 そこから見えるものはほんのわずかです。 その窓を通してどれだけのものが想像できるでしょうか。 どれだけリアリティーをもって、 外の世界が感じられるのでしょうか。 窓の外の世界。 秋の空気。高槻商店街の活気。 和菓子屋さんで売られていた十三夜のお月見団子の味。 行楽地をそぞろ歩く家族連れ。 病院で移植手術を待つ心臓病の人。 命拾いした肉牛たち。 アメリカの郵便配達人。 家族を弔いながら雪対策をするアフガニスタンの人たち。 メールを送ってくださった分裂病の男性。 休みなく稼働する研究室。 絶滅に瀕したタチスズシロソウ ・・・。 増大する情報に反比例して希薄になる暮らしの実感の中で、 いったいどれだけ、世界にリアリティーを感じられるか。 いったいどれだけ、自然や生きものに共感できるのか。 はめ殺しの窓を見ながら、 ぼーっと思う休日出勤の午後でした。 [高木章子] |