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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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最後の研究員レクチャー&ワークショップを終えて(5年間お世話になりました)

2019年9月2日

岩崎 佐和

「クーモーのーたーまーごー、クーモーのーたーまーごー」

透き通ったクモ初期胚(ステージ1~2)のような合唱が、BRHのカンファレンスルームに響き渡る。


「クーモーのーたーまーごー、クーモーのーたーまーごー」
「ク~モ~の~た~ま~ご~!」
「ク!モ!ノ!タ!マ!ゴ!」

最初は同じだったフレーズから、違いが生まれ、次第に複雑なオーケストラになっていく。

わたしも、クモ胚の中の一つの細胞になった気持ちで声を出す。

それぞれ自由に演奏しているようだけれど、どこか部屋の中での全体性が保たれている。

生きものってこんな感じかもしれない。

すごい。

7月の生命誌の日「形づくりの最初の一歩~クモの卵に魅せられて~レクチャー&ワークショップ」での一コマです。上述のように、文字ではどうしても伝えきることが出来ない、その日一回限りのイベントになりました。第一部では、クモがまん丸の卵から形を作っていく様子を、遺伝子発現の偏りに着目しながら、私の研究を交えてお話しました。第二部では、音楽家の西井夕紀子さんを講師としてレクチャーの内容を音楽に置き換えたりしながら、クモの胚の中で起こっていることの考察や体感を試みました。会場の皆さんと一緒に「クモのたまご」というフレーズを声に出しながら、たった一つの細胞(モノフォニー)から少し個性のあるいくつもの細胞(ヘテロフォニー)を感じる試みと、分化しつつある細胞やその境界を意識する試みを行いました。いつまでも遊んでいたい気持ちになりましたが時間が来てしまい、最後に新しい生きものを創るつもりで会場の皆さん全員で完全即興演奏を行い、イベントを終了しました。音楽家の西井さんはじめ、サポートして下さった館員の皆さん、そして参加者の皆さま、かけがえのない楽しい時間を本当に有り難うございました。

この職場に来てクモの研究を始めて5年。研究から得られた知見を元に、大人も子どもも、研究者もそうでない方も一緒になって遊びたい。一人一人がプロの生きものとして演奏する、科学のコンサートホール。そのような夢を持って、研究とイベントの企画の両方を行なってきました。ほんの数十秒ほどでしたが、実現出来たのではないかと感じています。まだまだ課題はありますが、またどこかでこのような企画が出来たら幸いです。

研究の方では、クモの初期胚発生の中でまだほとんど理解されていない、非常に初期の段階の胚を解析し、「胚盤形成」や「胚葉の分化」に関して新しい知見を得ることが出来ました。現在、論文を執筆中です。他にも、レーザー技術を用いた前方重複胚(双子)の作成実験を確立させ、クモ胚の調節能力の高さを改めて発見することに繋がりました。さらに、オオヒメグモデータベースの構築においても、発生段階で変化する遺伝子発現のプロファイルを調べられるようデータを蓄積しました。データベースは初期胚の写真なども追加され、これからも充実していく予定ですので、お楽しみに。

この5年間、ラボのメンバーはじめ、研究セクター、表現セクター、事務セクターの皆さん、それに来館者の皆さんに支えられ、ここまで辿り着くことができました。たくさん人に迷惑をかけたり、悩んだりもしましたが、ここがあったおかげで皆さんに出会い、成長を続けることが出来たと思っています。最後になりましたが、生命誌研究館を立ち上げ、表現者としての姿を間近で見せ続けて下さった中村桂子館長に感謝を申し上げると共に、皆様の益々のご発展を心からお祈り申し上げます。

[ カエルとイモリのかたち作りを探るラボ 橋本 主税 ]

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