研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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プラナリア研究、始まります!
2019年4月26日
はじめまして!4月から「カエルとイモリのかたち作りを探る」ラボの奨励研究員として生命誌研究館の一員になりました佐藤勇輝です。「カエルとイモリのかたち作りを探る」ラボに所属することになった私ですが、研究する対象はカエルでもイモリでもありません!私が扱うのは、プラナリアと呼ばれる生物です。
プラナリアは非常に高い再生能力で有名で、体を切断されても1週間で失った部分を全て再生します。(1匹を3つの断片に切ったら、3匹になります!)この高い再生能力はネオブラストと呼ばれる多能性幹細胞に支えられています。多能性幹細胞とは、体をつくる全ての細胞に分化することのできる細胞です。2006年に京都大学の山中伸弥教授が発表しノーベル賞を受賞したiPS細胞も多能性幹細胞の1つですね。ヒトやマウスといった多くの生物の成体内では多能性幹細胞は腫瘍を作ってしまうことが知られています。しかし、プラナリアのすごい所は成体になっても多能性幹細胞を腫瘍化させずに体内に維持し、再生や生殖にも利用していることなんです。そんな中、実は脊椎動物が成体になる前の発生段階でも周囲の細胞が分化していく中で長い間多能性を維持している細胞がいます。それが神経堤細胞です。
「カエルとイモリのかたち作りを探る」ラボでは今までにカエル神経堤細胞の多能性と細胞増殖の関係性に関する研究が進められてきました。しかし、細胞増殖を人為的に止めてしまうと発生そのものに大きな影響が出て神経堤細胞の多能性への影響だけを評価できないこと、細胞増殖の制御に関わる因子が数多く存在し相互に影響しあって複雑な制御をおこなっているためシンプルに物事を捉えられないことが問題となってきました。そこで登場するのがプラナリアです!プラナリアは発生が終わった成体でも多能性幹細胞を維持しているうえに、体の中で増殖している細胞は多能性幹細胞だけなので、細胞増殖を人為的に止めても多能性幹細胞に対する影響だけを評価できます。さらに、他の生物では多くの因子で複雑に制御されている細胞増殖ですが、プラナリアでは細胞増殖に関わる因子が他の生物に比べて少なく、驚くほどシンプルに制御されているようです。これらのことから、私はカエルとイモリで得た知見を基にプラナリアの多能性幹細胞における分化多能性と細胞増殖について研究を進めていきます!
私が高校の生物部で初めてプラナリアという不思議な生物に出会い、高い再生能力と多能性幹細胞に興味を持ってから10年以上が経ちました。今年度からついに大学院を出て高校生の時に夢見たプラナリアの研究者としての一歩が始まります。皆さんにも、私が高校生の日から感じている生物の不思議さ・面白さを感じてもらえるような研究成果をお披露目できるように、生命誌研究館でもプラナリア研究に邁進していきます!