研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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情報から知識を取り出そう
2018年7月2日
研究でミヤマカラスアゲハを使う必要が生じて、採集できる場所を探すことになりました。ミヤマカラスアゲハは比較的涼しい場所に適応した蝶なので、北国では割と目にする機会が多いのですが、関西ではかなり珍しい昆虫になります。
サンプルが簡単に入手できる方が研究材料としては好適なので、生命誌研究館がある高槻市から気軽に行ける範囲で採集できる場所を探すことになりました。以前はそういった採集場所に詳しい人の信頼を得て、こっそり教えていただかないと難しいことでしたが、今は検索すればいろんな情報が得られます。
ミヤマカラスアゲハの画像を検索すると、個人のブログやソーシャルネットワークサービスでたくさんの人が写真を共有しています。何時頃にどんな場所で採集されているのかまとめてみると、ちょっと気になることがありました。採集された場所の情報は比較的、公共の交通機関で行きやすい場所に偏りがあるんです。おそらく電車やバスを降りてから歩いて行ける範囲で、採集したり撮影された写真が情報として上がっていると考えられます。
そこで、採集された場所を地図上で一覧して全体像を眺めてみると、なんとなく分布域がつかめてきます。その中心付近で、主な食草がたくさんありそうな場所を探せば、画像の情報が集中しているあたりよりも効率よく採集できるのではないかと予想しました。
駅やバス停から歩いていくにはちょっと遠いところに行きたいので、バイクに乗って出かけました。自分が予想したあたりを走り回っていると、カラスザンショウが生えている場所がちょこちょこ見つかりました。しかし、しばらく食草を眺めていても、ミヤマカラスアゲハは見つけることができませんでした。ナミアゲハだと、食草を眺めていると産卵しに飛来するメスを見つけることが簡単にできるんですけどねぇ。作戦を変えて、現場の状況を詳しく把握するために、採集できそうな場所として予想した範囲をぐるぐると移動していると、アゲハチョウの仲間が吸蜜用に好む花が咲いているのに気がつきました。その花を観察していると、モンキアゲハやクロアゲハが入れ替わり立ち替わり蜜を吸いに来ます。食草のところで待ち構えているより、花のところにいる方が楽に採集できそうだなぁなんて考えていると、ついに黒地に青く輝く美しい模様を持った蝶が飛んで来ました!
考えるより先に手が出た感じで網を振って、「コイツ動くぞ、翅が痛むからやめろ〜」なんて思いつつ、中にいる蝶をドキドキしながら確認すると、大当たりです。ミヤマカラスアゲハでした(写真)。大阪に引っ越してきて十数年、初めて見つけることができました。そんなことを繰り返して、何箇所か採集しやすい場所を見つけることができましたので、研究材料を集めるのに苦労しなくて済みそうです。中にはその近所にお住いの方から教えていただいた場所もあるので、全部自分の力で見つけたわけではないのですけどね。
ビッグデータの活用というほど大げさな話ではないのですが、関連する情報を集めてそこから必要な知識をうまく取り出すことができると、効率よく目的を達成できるものなんだなと改めて思いました。
ミヤマカラスアゲハ