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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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イチジク属植物の花嚢中の乳液

2016年6月15日

蘇 智慧

イチジク植物とイチジクコバチの話は、私のラボ日記で何度も登場しています。最近ではイチジク属植物の花嚢がハエ類に寄生されている話をしました(2013年7月16日)が、今回はイチジク属植物の花嚢中の乳液の話をしてみたいと思います。

6月2日から一週間あまりに石垣島、西表島と与那国島にイチジク属植物とそのコバチの採集に行ってきました。研究材料の採集には必ず観察が伴っていて、何かの発見が期待されるため、それは採集作業のもう一つの楽しみです。今回の採集では、ギランイヌビワの様々な発育段階の花嚢に出会えました(図1)。

ギランイヌビワの花嚢は、送粉コバチが侵入して産卵が終わると、すぐ乳液を分泌して花嚢中の空間を充満させることが知られています(図2と3)。それは他の昆虫類の侵入を防ぐためであると考えられています。しかし、その乳液が花嚢のどの発育段階まで維持されているのかは、これまで直接観察したことはありませんでした。今回、様々な花嚢を開けてみると、なんと雄コバチが乳液の中で歩いていることが観察されました。つまり、雄コバチが虫こぶから出たときに、乳液がまだ花嚢中に多少残っていることが分かりました。このことから花嚢中を充満していた乳液はおそらくコバチが虫こぶから出てくる直前まで維持されているのではないかと考えられます。

2013年7月16日のラボ日記に書いたように、イチジク属植物の花嚢は本来イチジクコバチのみの生息場でしたが、最近、ハエ類による花嚢の占拠が激しさを増しています。特に琉球列島に生息しているイヌビワとハマイヌビワの花嚢には非常に高い割合でハエ類が見られます。しかし、ギランイヌビワの花嚢にはハエ類の寄生は全く見られません。あの乳液はハエ類の侵入を見事に防げたのではないかと思われます。イヌビワやハマイヌビワにもこのような防御仕組みが進化するのでしょうか。

[ DNAから進化を探るラボ 蘇 智慧 ]

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