研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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クモ研究の偉大な創始者、ホルムをたずねてウプサラへ
2016年6月1日
私は、7月にスウェーデンのウプサラで開かれる国際学会Euro-Evo-Devoに参加を予定しています。この学会には、2006年のチェコ、プラハでの大会と2008年のベルギー、ゲントでの大会に参加したことがありますが、最近はご無沙汰していました。今回、ウプサラで開催されるということで、1年前に参加することを決めました。
というのもウプサラは、今から65年も前に発表されたクモの実験発生学の論文 (Holm, 1952) の著者、Åke Holmが研究を行っていた地です。この論文は、からだの軸が二つに分かれたクモ胚を小さな組織片の移植によって人為的に作出できることを示したもので、私たちの論文や学会発表で必ず引用する歴史的な論文です。私たちが、ドイツ語で書かれたこの論文の存在に気付いたのは、オオヒメグモの研究を始めてから少し経った後でしたが、からだの軸が重複したクモ胚が写真で示されているのをみて衝撃を受けました。
その論文から、Åke Holmがウプサラ大学で研究をしていたことは分かるのですが、その人がどのような人なのか、論文以上のことは知りませんでした。今回の学会で私はシンポジウムの座長をやることになっていて、せっかくなのでÅke Holmのことを紹介できないかと考えていたのですが、最近たまたま「Åke Holm」と「spider」で検索したらイタリア語のWikipediaに「Åke Holm」のページが見つかりました。さらに、以下の文献に彼が1989年に80歳で亡くなったときに書かれた追悼文が掲載されていることも分かりました。私が生まれた年に撮影された彼の写真が載っています。
Kronestedt, T. 1989 - Åke Holm – in memoriam. Entomologisk Tidskrift n.110, pp. 121–125.
追悼文はスウェーデン語で書かれており、内容を細部まで正確に理解することはできていませんが、クサグモの実験発生学に夢中だった若き日の彼の様子について触れています。
時空を超えてクモの魅力を伝えてくれたÅke Holmの功績に敬意と感謝の念をいだきつつ、クモの魅力のさらなる奥の深さを世界の研究者と共有できる研究発表にできればと考えています。