研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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イチジク属植物とイチジクコバチの共生関係を脅かすハエ類
2013年7月16日
イチジク属植物とイチジクコバチは、授粉と産卵によって互いに必須となり、「1種対1種」(例外ある)という種特異性の高い相利共生関係を構築しています。例えば、イヌビワというイチジクの種にイヌビワコバチが、ハマイヌビワにハマイヌビワコバチがそれぞれ送粉し、また、同時にそれぞれの種の花嚢に卵を産み、コバチ自身の子供がその花嚢中で育ちます。花嚢中で一生を送るコバチにとって、その花嚢は外敵から自分を守る楽園のようにも見えます。しかし、その楽園はハエ類に占拠されつつ、イチジク属植物とイチジクコバチの共生関係もが脅かされています。
図1.タマバエに寄生されているイヌビワの花嚢。
図2.イヌビワの花嚢に寄生しているタマバエ。
先週水曜日(7月3日)から一週間沖縄でイチジク属植物とコバチの材料収集に出かけてきました。沖縄での採集はこれまで数回行ってきたが、回を追ってハエ類に寄生されるイチジクの花嚢の割合が増えているように思います。今回はイヌビワ、ハマイヌビワとホソバムクイヌビワの花嚢が非常に高い割合でハエ類に寄生されていることを観察しました。特にイヌビワの花嚢には2種類のハエが寄生しており、タマバエの1種とクロツヤバエの1種です。タマバエに寄生された花嚢は、形が変形したり極端に大きくなったりして外見からでも簡単に判別できます(図1)。そのタマバエは雄木の花嚢にも雌木の花嚢にも寄生し、虫こぶや種子を食べ尽くして花嚢を空洞にしてしまいます。タマバエに寄生されている花嚢を割ると、黄色幼虫がピョンピョン跳び上がります(図2)。一方、クロツヤバエは雄木の花嚢に寄生し、コバチ(特に雌送粉コバチ)を捕食します (Okamoto et al., Entomological Science 15: 288-293, 2012)。今回採集したイヌビワの花嚢はほぼすべてがクロツヤバエに寄生されていて、それらの花嚢から、雌送粉コバチが全く出ないか、数匹〜十数匹しか出てこないものばかりです。このように、タマバエに寄生される花嚢は種子も作れなければコバチも育ちません。クロツヤバエに寄生される花嚢はコバチが食べられてしまいます。ハエ類の寄生によってイチジクとイチジクコバチの共生関係がどのような影響を受けるのか、イチジクとイチジクコバチがどのような生存戦略をもってハエ類に対応するのか、または3者の間で新たな安定した共生関係を構築していくのか、非常に興味深い疑問が沸いてきます。