研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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【BRHでのすばらしい2週間を振り返って】
2013年5月1日
私は現在、Alistair McGregor博士(オックスフォードブルックス大学、イギリス)の研究グループでポスドクとして研究しています。私の科学的興味の中心は、動物の発生や形態の進化についてであり、特にクモの胚発生には注目しています。どうしてクモに興味を抱いているのか?と言うと、この小さな生きものの独自のライフスタイルに魅了されていることはもちろんのこと、このクモの研究の本当のメリットは、たくさんの異なる動物グループ(ヒトを含む)の胚と比較することにあるからです。クモやハエのような動物から、ヘビやヒト、さらにヒトデ、ミミズまで、これらの多様な動物の成虫は見た目が全く違いますが、胚発生ための基本的な分子プロセスの多くはとても似ているということがわかっています。これが意味するのは、異なるタイプの動物の発生を研究することによって、動物形態の複雑さが織りなす美しさをただ賞賛できるというだけでなく、私たちヒトの胚発生と進化的起源について非常に多くのことを学ぶことができるということです。
クモの発生に興味を持った人ならばここBRHの小田広樹博士と秋山–小田康子博士の研究論文に気づくのにそんなに時間はかからないでしょう。長年にわたってこの2人の研究者はこの分野を牽引してきました。新しい技術の開発や応用により、彼らは進化発生学に興味深い新たな見識をもたらしました。彼らのラボで開発した技術の一つに、ごく微量の液体をクモ初期胚に注入する技術があります。この液体と一緒に、特定の遺伝子の発現レベルの阻害をおこなう薬を投与すると、それらの遺伝子の機能解析を可能にしてくれるのです。私はこの技術を習得したいと熱望し、小田博士も私たちのラボとの共同研究に協力していただきとても嬉しかったです。加えて、欧州分子生物学機構(EMBO)からの短期フェローシップを得ることができて、BRHへの訪問が実現しました。
今私は日本からちょうど戻ったところで、非常に有意義でとても楽しかったひとときを思い返しています。BRHに対する、特に、小田ラボに対する私の印象は、とてもすばらしい研究環境であるという印象です。研究設備はファーストクラスで、異なる研究グループが生物学研究の広い範囲をカバーしています。小田ラボは技術的に難しい実験に挑戦できる環境が整っている一方で、ラボの雰囲気は明るく、人はインタラクティブでした。それゆえ私は、二週間の滞在の間に微量注入技術をなんとか習得することができたというだけなく、広樹や康子、小田ラボの他のメンバーとたくさん興味深い会話ができ、実験の詳細を知ることができて有意義な時間を過ごせました。さらに、他のラボの人たちと交流をしたり、中村桂子博士からBRHの独自のコンセプトについて学んだり、美しい展示の数々を見学しました。その上、BRHの前の咲誇る桜を見ることができて私はとてもラッキーでした!
それゆえ私は、今回お世話になったすべての方々に感謝の気持ちを表したいと思います。BRHには私を受け入れてくれたことに対して、小田広樹博士、秋山–小田康子博士、野田彰子さんにはいろいろと手助けをいただいたそのすべてに対して、BRHのメンバーのみなさんには私の滞在中に温かく歓迎していただいたことに対して、EMBOには私に資金を提供していただいたことに対して感謝します。